遂に話題のクラッシュを借りることが出来ました。先ずはTourではないノーマルのClash100のレビューです。
コンセプト
このラケットは「革命的」らしいので、製品のコンセプトについて少し触れておきます。ウイルソン自身の宣伝も含めやや表現が錯綜している感がありますが、要は次のように言い表せると思います。
- 柔らかな打感とコントロール性を得るためには、ラケットは何処かで撓む必要がある。
- しかし、パワーと安定性を得るためには、ミスヒットした時の面振れは極力抑えたい。
これを実現する為にどういう特性にしたかというと;
- (フレームを横から見たときの)曲げ剛性がかつてないほど低い(ウッドラケットより低い)
- (グリップ軸周りの)ねじり剛性は近年の厚ラケの中でも高い方
という話だと思います。
もっともここでいうミスヒットとは、正確にはラケットフェイスの左右に外した場合で、縦方向(手元や先端)に外した場合はこの特性だとブレが大きくなる筈です。しかし近年のラケットのスウィートスポットは大抵フェイスの先端付近にある一方で、フェイスの手元に当たったとしてもラケットの重心に近いので大きくはぶれません。だから左右方向のブレだけ抑えればOKという事でしょう。
構造的にはクルマのアンチロールバーのように、スロート部分の左右が同位相に動く場合は大きく動き(しなり)、逆位相に動く場合はその動きを規制すれば良いわけです。それをやっているのが恐らくスロートの内側の盛り上がった部分でしょう。これで特許を取ったと言ってますが、プリンスの昔の「デカラケ」のように、スロート部分に横に一本ブリッジを通すだけでも同様の効果が得られると思いますけどね。
スペック
今回は今まで試した全てのラケットに登場してもらいました。
製品名 | 重量 | バランスP | フレーム厚 | 重量(実測) |
---|---|---|---|---|
Clash 100(※) | 295g | 310mm | 24mm | 308g |
Pure drive team | 285g | 320mm | 23-26mm | 300g |
Vcore 98 (G) | 305g | 315mm | 22/22/21mm | 335g |
Vcore 100 | 300g | 320mm | 24/25/22mm | 323g |
CX200Tour | 310g | 310mm | 20.5mm | 333g |
Vcore pro 97 | 310g | 310mm | 20.0mm | 328g |
Prince Tour 95 | 310g | 310mm | 22/22/20mm | 336g |
Pro Staff 97CV | 315g | 310mm | 21.5mm | 330g |
Pro Staff Tour 90 | 315g | 315mm | 17mm | 336g |
※使用ガット:イチバン127(ナイロンのモノフィラメント)。テンションは50ポンド。
スペック重量はこれまでの最軽量であるピュアドライブ・チームに次ぐ軽さです。実測重量も同様に、軽さ歴代2位の308gでした。バランスポイントは軽さの割には手元寄りですが、実際に持つとそうでもなく普通にトップヘビーに感じました。そこで何時ものように自分でバランスポイントを探ってみると、私のTour90より15mmほど先端で釣り合いました。試打ラケットには通常巻いてあるグリップテープが巻いてなかったせいもあるかもしれませんが、それでも大体Vcore100と似たようなバランス感・スイングウェイトだと思います。
あとフレームの厚みは24mmもあり、Pure driveやVcore100と並んで私が試した中では最も厚い部類です。しかしWilsonのプロモーションビデオで、腕で押さえてしならせる実験をやっていましたが、猛烈にしなりますね。私も控えめに真似したところ、確かに然程力を加えなくても結構撓りました。試しに私の薄ラケTour90でもやってみましたが、実はこれも想像以上に撓りました。でもClashの方がやや軽い力で撓るようです。
試打レビュー
前置きが嘗てないほど長くなってしまいましたが、ようやく試打レビューです。一言で言うと、近年の厚ラケの中では傑出してスウィートな打感でした。と言っても薄ラケを愛用する私からすれば、巷で言われるようなラケットが凄くしなる感じというよりは、タッチが柔らかくボールをホールドして運べる感覚です。このタッチを実現している製品は薄ラケ以外で出会ったことはありません。リムのたわみだけで柔らかさやホールド感を出そうとしても限界があるんですね。やはりラケットはある程度しならないと。
勿論、しなりすぎて非力かというとそんな事はなく、むしろ相当パワフルです。これまで試したパワー自慢の厚ラケ達より楽にマッシブなボールが打てます。また、ホールド感があるということはスピンのかかりも素晴らしく、高さ・方向・スピン量を自在にコントロールできる感じです。タッチだけでコントロールできるラケットは当然ボレーも打ちやすいですし。
これだけ打ちやすいと私のTour90はもう打てないんじゃないかと思いつつTour90に戻してみると、何と更に柔らかい打感で軽々と飛ぶではないですか。軽いClashで打ってるうちに脱力して速いスイングをするようになり、そのままのスイングでTour90を使ったようです。
で再びClashに持ち替えると、遥かに低いヘッドスピードでかなりパワフルなボールが打てる事に気付きます。ただ、もっと速く振ったら更に強烈なボールが打てるかと言うとそんな事は無いんですね。60%のスイングでほぼ100%のボールが打てるけど、100%のスイングでも103%くらいの威力にしかならない感じです。MIDIキーボードに喩えると、6割のベロシティーで音量マックスになり、それ以上は幾ら強く弾いても同じ設定みたいなものです(分かる人にしか判らない喩えですみません)。
それと、夢中になって打ちまくったせいもあると思いますが、ソフトな打感と強いパワーアシストの割には、打ち疲れている事に気づきました。軽さのせいかそれとも面剛性の高さ故か、ミスヒットした時に厚ラケ特有のガツンとした鋭い振動を感じます。そのため、打ち負けないように無意識に力が入っているのかも知れません。ただ誤解なきよう言っておくと、同程度の重量なら最も打ち疲れしないラケットだと思います。ピュアドライブなんてこんなもんじゃすみませんからね。
なので次回はより重く、もう少しハードヒットに耐えうるのではないかと思われるClash100Tourを試してみたいと思います。
考察
薄ラケの打感を再現し、尚且もう少し軽くてもう少しパワーアシストがあれば理想だなと思っていた私にとって、Clashのようなラケットの登場は大歓迎です。これまで試打したラケットがイマイチしっくり来なかった理由は、柔らかさをアピールしていてもそれは面剛性の話であって、全体のしなりは殆どなかったからだと判りました。
ただ数週間経った今振り返ると、Clashの半分は薄ラケですがもう半分は厚ラケだなと感じます。これはメーカーの狙い通りですが、私には非常に低い曲げ剛性と非常に高いねじり剛性のギャップが極端すぎて、ややチグハグな印象が残りました。例えば、ミスヒットをした時に突然硬さが顔を出すところとかです。
因みに私のTour90は、軽く振ったらそれなりにしか飛びません。試しにボールを軽くリフティングすると、実はClashどころか他のどの厚ラケより跳ねないというか、反発力が弱く感じるのがTour90です。ただスイングを速くしていくと、それに比例して球速が増していきます。しかも、速く振るほど打感がソフトになり弾力性が増しているように感じるのです。またフェイスの左右方向にミスヒットすると確かにブレるのですが、その御蔭で衝撃が吸収されているし、実は方向性もそれほど狂いません。
なのにどのラケットメーカーも、『しなり・ブレ=パワーロス』という厚ラケ理論に囚われすぎのように思います。確かに、万力でラケットを固定しボールをぶつけるような試験方法だと、ブレが少ないほど反発係数も高いでしょう。しかし人間がボールを打つ場合、ラケットを完全に握りしめている訳ではないし、リストも肘もインパクトで多少動く筈。前腕-上腕-胸という有限の質量のパーツが、柔軟なジョイントで繋がって複雑な運動をしている訳です。
ですからラケットを地面に固定したような試験環境(シミュレーションなら物理モデル)では、現実との乖離が大きすぎて殆ど役立たないんじゃないでしょうか。せめてゴルフのスイングロボットのように、手と上腕だけでラケットを振るような実験機器が必要だと思いますけどね。
厳し目のまとめになってしまいましたが、これは勿論Clashが悪いという意味ではないです。むしろClashは、しなりは悪という厚ラケ理論の呪縛から片足だけ抜け出しているわけですから、願わくばもう片方の足(ねじれも悪)も抜け出して欲しいと思うのです。