Tennis -- MCタイチ

遂に話題のクラッシュを借りることが出来ました。先ずはTourではないノーマルのClash100のレビューです。

コンセプト

このラケットは「革命的」らしいので、製品のコンセプトについて少し触れておきます。ウイルソン自身の宣伝も含めやや表現が錯綜している感がありますが、要は次のように言い表せると思います。

  1. 柔らかな打感とコントロール性を得るためには、ラケットは何処かで撓む必要がある。
  2. しかし、パワーと安定性を得るためには、ミスヒットした時の面振れは極力抑えたい。

これを実現する為にどういう特性にしたかというと;

  1. (フレームを横から見たときの)曲げ剛性がかつてないほど低い(ウッドラケットより低い)
  2. (グリップ軸周りの)ねじり剛性は近年の厚ラケの中でも高い方

という話だと思います。

もっともここでいうミスヒットとは、正確にはラケットフェイスの左右に外した場合で、縦方向(手元や先端)に外した場合はこの特性だとブレが大きくなる筈です。しかし近年のラケットのスウィートスポットは大抵フェイスの先端付近にある一方で、フェイスの手元に当たったとしてもラケットの重心に近いので大きくはぶれません。だから左右方向のブレだけ抑えればOKという事でしょう。

構造的にはクルマのアンチロールバーのように、スロート部分の左右が同位相に動く場合は大きく動き(しなり)、逆位相に動く場合はその動きを規制すれば良いわけです。それをやっているのが恐らくスロートの内側の盛り上がった部分でしょう。これで特許を取ったと言ってますが、プリンスの昔の「デカラケ」のように、スロート部分に横に一本ブリッジを通すだけでも同様の効果が得られると思いますけどね。

Wilson clash

スペック

今回は今まで試した全てのラケットに登場してもらいました。

製品名 重量 バランスP フレーム厚 重量(実測)
Clash 100(※) 295g 310mm 24mm 308g
Pure drive team 285g 320mm 23-26mm 300g
Vcore 98 (G) 305g 315mm 22/22/21mm 335g
Vcore 100 300g 320mm 24/25/22mm 323g
CX200Tour 310g 310mm 20.5mm 333g
Vcore pro 97 310g 310mm 20.0mm 328g
Prince Tour 95 310g 310mm 22/22/20mm 336g
Pro Staff 97CV 315g 310mm 21.5mm 330g
Pro Staff Tour 90 315g 315mm 17mm 336g

※使用ガット:イチバン127(ナイロンのモノフィラメント)。テンションは50ポンド。

スペック重量はこれまでの最軽量であるピュアドライブ・チームに次ぐ軽さです。実測重量も同様に、軽さ歴代2位の308gでした。バランスポイントは軽さの割には手元寄りですが、実際に持つとそうでもなく普通にトップヘビーに感じました。そこで何時ものように自分でバランスポイントを探ってみると、私のTour90より15mmほど先端で釣り合いました。試打ラケットには通常巻いてあるグリップテープが巻いてなかったせいもあるかもしれませんが、それでも大体Vcore100と似たようなバランス感・スイングウェイトだと思います。

Wilson Clash

あとフレームの厚みは24mmもあり、Pure driveやVcore100と並んで私が試した中では最も厚い部類です。しかしWilsonのプロモーションビデオで、腕で押さえてしならせる実験をやっていましたが、猛烈にしなりますね。私も控えめに真似したところ、確かに然程力を加えなくても結構撓りました。試しに私の薄ラケTour90でもやってみましたが、実はこれも想像以上に撓りました。でもClashの方がやや軽い力で撓るようです。

試打レビュー

前置きが嘗てないほど長くなってしまいましたが、ようやく試打レビューです。一言で言うと、近年の厚ラケの中では傑出してスウィートな打感でした。と言っても薄ラケを愛用する私からすれば、巷で言われるようなラケットが凄くしなる感じというよりは、タッチが柔らかくボールをホールドして運べる感覚です。このタッチを実現している製品は薄ラケ以外で出会ったことはありません。リムのたわみだけで柔らかさやホールド感を出そうとしても限界があるんですね。やはりラケットはある程度しならないと。

勿論、しなりすぎて非力かというとそんな事はなく、むしろ相当パワフルです。これまで試したパワー自慢の厚ラケ達より楽にマッシブなボールが打てます。また、ホールド感があるということはスピンのかかりも素晴らしく、高さ・方向・スピン量を自在にコントロールできる感じです。タッチだけでコントロールできるラケットは当然ボレーも打ちやすいですし。

これだけ打ちやすいと私のTour90はもう打てないんじゃないかと思いつつTour90に戻してみると、何と更に柔らかい打感で軽々と飛ぶではないですか。軽いClashで打ってるうちに脱力して速いスイングをするようになり、そのままのスイングでTour90を使ったようです。

で再びClashに持ち替えると、遥かに低いヘッドスピードでかなりパワフルなボールが打てる事に気付きます。ただ、もっと速く振ったら更に強烈なボールが打てるかと言うとそんな事は無いんですね。60%のスイングでほぼ100%のボールが打てるけど、100%のスイングでも103%くらいの威力にしかならない感じです。MIDIキーボードに喩えると、6割のベロシティーで音量マックスになり、それ以上は幾ら強く弾いても同じ設定みたいなものです(分かる人にしか判らない喩えですみません)。

それと、夢中になって打ちまくったせいもあると思いますが、ソフトな打感と強いパワーアシストの割には、打ち疲れている事に気づきました。軽さのせいかそれとも面剛性の高さ故か、ミスヒットした時に厚ラケ特有のガツンとした鋭い振動を感じます。そのため、打ち負けないように無意識に力が入っているのかも知れません。ただ誤解なきよう言っておくと、同程度の重量なら最も打ち疲れしないラケットだと思います。ピュアドライブなんてこんなもんじゃすみませんからね。

なので次回はより重く、もう少しハードヒットに耐えうるのではないかと思われるClash100Tourを試してみたいと思います。

考察

薄ラケの打感を再現し、尚且もう少し軽くてもう少しパワーアシストがあれば理想だなと思っていた私にとって、Clashのようなラケットの登場は大歓迎です。これまで試打したラケットがイマイチしっくり来なかった理由は、柔らかさをアピールしていてもそれは面剛性の話であって、全体のしなりは殆どなかったからだと判りました。

ただ数週間経った今振り返ると、Clashの半分は薄ラケですがもう半分は厚ラケだなと感じます。これはメーカーの狙い通りですが、私には非常に低い曲げ剛性と非常に高いねじり剛性のギャップが極端すぎて、ややチグハグな印象が残りました。例えば、ミスヒットをした時に突然硬さが顔を出すところとかです。

因みに私のTour90は、軽く振ったらそれなりにしか飛びません。試しにボールを軽くリフティングすると、実はClashどころか他のどの厚ラケより跳ねないというか、反発力が弱く感じるのがTour90です。ただスイングを速くしていくと、それに比例して球速が増していきます。しかも、速く振るほど打感がソフトになり弾力性が増しているように感じるのです。またフェイスの左右方向にミスヒットすると確かにブレるのですが、その御蔭で衝撃が吸収されているし、実は方向性もそれほど狂いません。

なのにどのラケットメーカーも、『しなり・ブレ=パワーロス』という厚ラケ理論に囚われすぎのように思います。確かに、万力でラケットを固定しボールをぶつけるような試験方法だと、ブレが少ないほど反発係数も高いでしょう。しかし人間がボールを打つ場合、ラケットを完全に握りしめている訳ではないし、リストも肘もインパクトで多少動く筈。前腕-上腕-胸という有限の質量のパーツが、柔軟なジョイントで繋がって複雑な運動をしている訳です。

ですからラケットを地面に固定したような試験環境(シミュレーションなら物理モデル)では、現実との乖離が大きすぎて殆ど役立たないんじゃないでしょうか。せめてゴルフのスイングロボットのように、手と上腕だけでラケットを振るような実験機器が必要だと思いますけどね。

厳し目のまとめになってしまいましたが、これは勿論Clashが悪いという意味ではないです。むしろClashは、しなりは悪という厚ラケ理論の呪縛から片足だけ抜け出しているわけですから、願わくばもう片方の足(ねじれも悪)も抜け出して欲しいと思うのです。

ノーマルのClash100は打感は期待通りだったけど軽すぎると感じたので、より重いClash100Tourを試してみました。

スペック

このラケットはどのカテゴリにも属さない特殊なスペックなので、比較対象として今まで試した全てのラケットに登場してもらいました。

製品名 重量 バランスP フレーム厚 重量(実測)
Clash 100 Tour 310g 306mm 24mm 326g
Clash 100 295g 310mm 24mm 308g
Pure drive team 285g 320mm 23-26mm 300g
Vcore 98 (G) 305g 315mm 22/22/21mm 335g
Vcore 100 300g 320mm 24/25/22mm 323g
CX200Tour 310g 310mm 20.5mm 333g
Vcore pro 97 310g 310mm 20.0mm 328g
Prince Tour 95 310g 310mm 22/22/20mm 336g
Pro Staff 97CV 315g 310mm 21.5mm 330g
Pro Staff Tour 90 315g 315mm 17mm 336g

先ず重量は、スペック上は又もや横並びの310gですが、実測では326gとツアーモデル中最軽量でした。バランスポイントは306mmと全モデル中一番手元にあります。実際持ってみると、確かにPrinceやDunlopの製品ほど重々しく感じませんが、何故かより重くバランスが先端にあるハズのPro staff 97CVより重く感じます。

Clash tour

写真はノーマルのクラッシュのものを流用していますが、外観やサイズはTourも全く同じだそうです。使用ガットはClash100と同じイチバン127(ナイロンのモノフィラメント)。テンションは52ポンドとなっていました(ノーマルClashは50ポンドでした)。

試打レビュー

先ず打感ですが、あれほどソフトだったノーマルのClashとうって変わって、わりとガツンと来る硬めの打感でした。ホールド感もそれほど無く、私には普通の厚ラケと大差ないように感じました。これだとプリンスやダンロップのボックス断面のツアーモデルの方が、面剛性を含む全般的な硬さは若干柔らかいように思います。

スイングウェイトも上述の通り、スペックの割には重く感じました。私のTour90の方が実測重量で10gほど重く、実測バランスPはほぼ同じ位置なのに、不思議なことにClash 100 TOURの方が鈍重に感じるのです。試しにピックアップウェイト(振らずにグリップ部分で持つだけ)をジックリ比較してみると、両者同じような重量感でした。

ピックアップウェイトとスイングウェイトは別の指標(物理単位)なので違っていても不思議はないですが、それでもこんなに差がつくのは何故だろうと考えた時、Clashは振った時の空気抵抗がTour90より大分大きい事に気付きました。

理論上は、完全にフラットなショットなら、フレームの全面投影面積が小さくラケットの進行方向に長い(分厚い)厚ラケの方が空気抵抗は少ないはずです。しかし、実際にはストロークでもサーブでもそれなりにスピンを掛けるわけで、その場合フェイスに対して斜めにラケットが進みます(しかも基本的にスピン量が多いショットほどヘッドスピードが速い)。そうすると厚ラケの平たい断面に対して斜めに空気が流れる事になり、小さな正方形断面の薄ラケより空気抵抗が大きくなる筈です。

なのでClash Tourは振り抜くのを諦めて、ゆっくり丁寧に振るとパワフルで安定したショットが打てます。これはピュアドライブのように硬い典型的な厚ラケでも同じでした。今日の厚ラケはいくら軽くても空気抵抗でヘッドスピードが制限されるので、ゆっくり丁寧に打つ(それでもパワーは出る)のが鉄則のようです。

それともう一点気づいたのは、ノーマルのClashよりは一回り重い筈なのに、ボールに対する打ち負け感はさほど変わらないという事です。打ち負け感とはラケットの軽さによるブレや振動だと思っていましたが、そうとは限らないようですね。では何が原因かというと、恐らくねじり剛性の過剰な高さだと思います。打ち負け感を覚えるのは特にラケットの左右にミスヒットした時ですが、その際ラケット自体は確かに捻れないので、その分手首に衝撃(ねじりトルク)が伝わり結局ぶれてしまうのではないでしょうか。

その点薄ラケはミスヒットで捻れるんでしょうけど、その御蔭でラケットがねじりトルクを吸収し、腕に伝わる衝撃を緩和しているように思います。体感上のスウィートエリアが高剛性な厚ラケも低剛性な薄ラケもさほど変わらないのは多分この辺が理由でしょう。ブレとかエネルギーロスを考える時には、ラケットだけではなく腕の関節で起きるロスも含めて考える必要があると思います。

なのにメーカーは何故「高剛性=高性能」のように宣伝するのでしょうか?それは他のレビューでも書いているように、恐らくラケットを万力で固定してそこにボールを当てるような実験方法のせいだと思います。或いはその実験によって導き出された「捻れない・しならないラケットほどパワフルかつコントローラブル」という厚ラケ信仰の弊害でしょう。

それに対して、「しなりは必ずしも悪ではない」という考え方で生まれたのがClashです。更に私がClashを試打して得た所見は「しなりは勿論、ねじれですら必ずしも悪ではない」というものです。つまり普通の薄ラケ(無ければ中厚)で良いじゃんという何時もの結論に戻ってしまいます。Wilsonの現行のラインナップでは、Clash程しならないけど捻れはもっとあるというBladeがベストになりますね。

最後になりましたが、ClashのノーマルとTourを比較したら私はノーマルの方が好きです。最初にノーマルを試打した時は、若干軽すぎ・しなりすぎかなと思いましたが、TourはClashらしさを消しすぎで普通の厚ラケみたいだし、重くしたメリットも見いだせないからです。

(今回はいつもの「試打レビュー」と「考察」が一緒くたになってしまったので、項目としては分けていません)