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そろそろEVの時代かな2008-06-11

★この記事は別のサイト「プロジェクトEV」に移植しました。

最近のガソリン価格高騰を受けて、EV(電気自動車)が注目され、TVなどでもよく取り上げられるようになりました。

中でも三菱のi-MiEVは、2009年から発売の予定ですし、スバルもR1ベースのEVがかなりの完成度まで来ているようです。今まではEVというと試作車の域を出ていませんでしたが、いよいよ普及の段階に入ってきたのではないでしょうか。

i-MiEVについては清水和夫氏による試乗インプレッションに詳しいです。

と言っても、僕は最近の殆ど宗教化したエコロジーブームにはうんざりで、EVを評価するのはCO2を出さないからではなく、マシンとしての性能が高いからです。

EV vs ガソリン車、エネルギー効率比較

バイクマニアの僕が言うのもなんですが、内燃機関って恐ろしく乱暴で非効率なマシンなのです。

ガソリンエンジンの熱効率はたった20%足らず(ディーゼルエンジンでも30%程度)です。つまり元のガソリンのエネルギーを100とすると、タイヤを駆動するのに使っているのは20弱で、残りの80強は熱として外に捨てているのです。

原理的に内燃機関で高効率を目指すには、圧縮比を極限まで大きくしないといけないので、非常に厳しい。現在の技術でも1:11くらいがレギュラーガソリンの限界です。100年間も改良を続けてきてもこれですから、もう殆ど改良の余地は無いでしょう。

一方、電気モーターのエネルギー効率は90%以上!もあります。最初から勝負にならないんですよ。

では、クルマ全体のエネルギー効率を比較するとどうなるか?MiEVのプロモーションビデオから抜き出すと次のようになるそうです。

EVは電池周りで多少ロスがあるものの、ガソリン車に比べて3.5倍も高効率なのです。しかも、ガソリン車の数値は最も効率が高い回転域でのものですから、実際の運転モードではもっと効率は落ちます。

一方、電気モーターは回生ブレーキがありますから(上の数値には多分含まれていない)、ガソリン車ではブレーキローターから熱として放出するだけだったエネルギーを、再利用することが出来ます。

モーター vs エンジン、トルク特性比較

自転車を漕ぐと判るように、加速の最初は大きな力(トルク)が必要で、そのうち軽くなって今度は速く回す必要が出てきます。

ここで、ギアの無いマシンを一定の加速度で加速させたい場合のパワー特性を考えてみます。

パワー(仕事率)=トルク*回転数∝重量*加速度

ですから、加速度は一定なので、右辺は定数になり、

トルク=定数/回転数

となります。つまり、トルクと回転数は反比例するという事です。これをグラフにすると次のようになります。

理想トルクカーブ

では、EVとガソリン車のパワー特性はどうなっているか?MiEVのサイトから拝借すると、次のようになります。

mie_bod_gra_05.gif

EVの方は、冒頭のグラフとほぼ同じですよね。 だから変速機無しでそのまま乗り物に使えるのです。電気モーターは原理的にこの反比例型のトルク特性であり、言ってみれば生まれながらにして乗り物の動力源に適しているという事です。

一方、エンジンの方は、ご存知のように中央付近が高い山形の曲線であり、一定回転数以下は単体で回ることすら出来ません。よって、クラッチやギアを駆使することで、何とか走れるようにしているのです。

走行曲線

これはクルマの走行曲線というもので(カタログなどで見た事があると思います)、駆動力(タイヤに伝わる力)と速度のグラフです。各ギアの曲線を重ね合わせて、先の反比例グラフに近づけていることが判ります。

しかし、実際の加速ではグワッとトルクが盛り上がったと思ったら、シフトアップでカクンと落ちるという、ギザギザのトルク曲線になります。特に、低いギアの時はそれが顕著で、乗ってる人間もギクシャクします。

これを回避するにはCVTしかありませんが、CVTは摩擦抵抗とトルク伝達ロスが大きいのです。 また、エンジン回転が一定で速度だけが上がるような設定にすると、ドライバーにとっては違和感があるので、結局一定範囲内ではギア比は固定するという、従来のミッションと似た制御にしています。
熱効率と言う点でも、最も良いのは大抵トルクピークの少し下あたりの回転なので、それを外すと上記の17%をさらに下回ります。

このように、内燃機関は使える(効率がよく、トルクもある)回転数が限られており、実は加減速に向いていないパワーソースと言えます。

バッテリーの発達とEVの普及

では、何故今までこんなに欠点だらけのエンジン自動車が栄えて、理想的な電気自動車が普及しなかったかと言うと、それはひとえに電池のエネルギー密度が低かったからです。平たく言うと、クルマに搭載できる位の大きさ・重さのバッテリーでは、一回の充電で少ししか走れなかったからです。

逆に言うとガソリンのエネルギー密度は非常に高く、このような燃料が多量に安価に供給されたことが、自動車の発展を支えたのです。しかし、今や安価とは言えなくなってしまった。

ちなみに、自動車メーカーが本気でEV用バッテリーの開発に取り組んできたら、もう少し早く実用化していたかも知れません。しかし、実際にバッテリーの高性能化を促したのは、ノートPCや携帯電話でした。

という訳で今は、リチウムイオン電池の性能向上によって、EVの走行距離も実用レベルになってきています。i-MiEVでは160kmの航続距離を目標としていますが、 それくらい走れば普段乗りには充分ではないでしょうか。また、現時点でそのレベルであれば、ガソリン車並になるのは時間の問題でしょう。

ハイブリッドは繋ぎ、燃料電池車はボツ

プリウスの大ヒットで、トヨタは一躍「エコカー」競争のトップに躍り出ましたが、僕に言わせればハイブリッド車はEVまでの繋ぎ商品位の意味しかありません。

確かに、ガソリン車に比べて燃費は良いですが、それはエンジンの効率の良い回転域を使える事と、回生ブレーキが使えるからです。言ってみれば、「通常のガソリン車よりはマシ」位の話です。

1台のクルマに、エンジンとモーターの2つの動力系があるなんて、無駄も良いところです。そんな複雑な機構ならコストアップは当たり前、ガソリン車以下の値段には絶対になりません。

EVはミッションや燃料系、冷却系、防音装備など全て省けるのが、コストや効率上の利点ですが、ハイブリッド車はそれが全く生かされていません。

さらに、燃料電池車に至っては、殆ど突然変異の恐竜のような代物です。発電所を搭載しながら走る車なんて、一体どういうセンスなのかと。

第一、燃料電池自体がまだ一般に普及しているものではありません。電極の劣化について、根本的な壁にぶつかっていると聞きます。それに、燃料の水素はどこで買えるんですか?水を電気分解するにもエネルギーが要るし、危険な水素を貯蔵する設備をその辺に作るんですかと。

自動車メーカーは電気系の会社になる?

このように回り道をして、なかなかEVに進まなかったのは、「電気自動車なんてバッテリー運搬車だ」とか「歴史的に見て、内燃機関の方が優れているに決まっている」といったクルマ屋の先入観があったのだと思います。

これは裏を返せば、完成車メーカーにとって、エンジンは要素技術としては最後の砦とも言える分野であり、それがなくなると単にサプライヤーの技術を組み合わせるだけの存在になってしまう、という危機感があるのでしょう。

その意味では、元々大した売り上げがない三菱やスバルは、割りきりがしやすかったのかもしれません。

ただ、トヨタにしたって、いつまでも時代に逆らってばかりはいられません。パナソニックなどから大量に出向社員を受け入れたり、電気・電子系の中途採用や新卒採用も増やしているようです。自動車と言えば電気技術という時代が、そう遠くない将来やってくるのかも知れませんね。

Well to Wheel(6/19追記)

燃料電池の話をしていると、色んな物質を介するので、結局全体のエネルギー効率はどうなのよ?という疑問がでてきます。そこで登場するのが、一定量の原油からどれだけクルマの駆動エネルギーが取り出せるか?「well(油井) to wheel(ホイール)」という考え方です。

well to wheelこのwell to wheel を各種電気自動車やハイブリッドカー、ガソリン車などで比較したものが、国立環境研究所のサイトにありました。 また、グラフを拝借します。

これによれば、「ハイブリッド燃料電池車(ガソリン改質)」なるものが最も効率が良いそうです。これって、エンジンと燃料電池(つまりモーター)を併用するんでしょうか?そんなクルマあったっけ?

いずれにしろ、ガソリンハイブリッドと他の電気駆動タイプの効率が、殆ど変わらないではないかと!まあ、原油をベースの計算だから、ガソリンベースの方式が有利になるのは仕方ないでしょうけど。

電気自動車の最大と最小の幅が異様に広いのは、発電所の効率の差でしょうか?それでも最小が0.1以下ってどんな方式なんでしょうね。ちなみに、火力発電の熱効率は最新の日本のもので約43%だそうです⇒読売新聞:火力発電、熱効率を改善

この43%に上記のMiEVの効率55.5%をかけると、トータル約24%って事ですか。これだけ見るとEVのメリットはあまり無いので、あとはもっと効率の良い発電所とのミックスで全体としてどのくらい行くかですね。

それに、時間帯によっては余剰電力があるので、それをうまく使えば電気自動車の分を丸々発電しなくても良いはずです。また、新たな発電所の建設だったそれほど必要ないでしょう。

ちなみに(財)エネルギー総合工学研究所なる組織の電力の話によると、日本の石油発電は10%足らずですね。その代り、天然ガスと石炭が案外多くて、それぞれ20%強あります。あと、夏の昼間と夜間では電力需要に約2倍の差があるんですね。増減を調整するのはほぼ火力のみ。

一方、燃料電池車は、水素にしろメタノールにしろ、そのためだけに燃料生成装置を建設し、末端ユーザに供給する必要があります。クルマたちがそれぞれに、私は水素を飲みます、僕はエタノール、パパはガソリンだ、とか言い出したら収拾つかないでしょう。

電力というエネルギーフォーマットは非常にグローバルで、何にでも使えるというのがポイントです。 だからそこだけ押さえれば、あとは発電方式は自由、蓄電方式も自由、それぞれに効率の良い方法を開発してくださいと言えるのです。

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