クラビコード試奏レビュー2014-02-26
[2022-09-19] 従来は全ての楽器を同じページに書いていましたが、長くなり過ぎたのでクラビコード(当ページ)、チェンバロ、フォルテピアノと別々のページに分ける事にしました。以下はオリジナルの文章を改定してお届けします。
実は私、チェンバロやクラヴィコードの解説なんしてるくせに、実機に触れた事が無かったのです^^;クラヴィコードに関しては楽器博物館で見ただけで、生音を聴いたことすらありません。
そこでこの度、ネットで見つけた大阪茨木市のオワゾリールハウスというお店(と言っても普通の住宅)にお邪魔しました。チェンバロを教えたり演奏会に出演されるという女性店主に付きっ切りでご説明頂きつつ、様々な楽器に触れる事が出来て大変感激しました。興奮し過ぎて多少混乱していますが、頭を整理しながらレポートをお届けしたいと思います。
キット販売している共有弦(フレッテッド)タイプです(多分これ)。写真で見る印象よりコンパクトで、やや大きめのステージピアノ(88鍵)位のサイズです。
音の大きさは一般的なアコギより一回り小さく、ミニギターをフィンガーピッキングで軽く弾いた時の音量くらいでしょうか。だから、一戸建てなら夜中に弾いても問題ないでしょう。逆に2m以上離れて聴いてる人からすると何を弾いてるのか判りにくいかも^^;
シャンシャンとした音色は素朴で、中世ヨーロッパ的なんだけど地中海~中東、中央アジアの香りもします。ただこれも至近距離で聴き、振動が指に伝わる演奏者じゃないと判りづらいかも。そういう意味では、聴き手よりも弾き手にとって気持ち良いタイプの楽器じゃないでしょうか。
キータッチはやはり独特で、まずタンジェントが弦に触れるまでのキーストロークがとても浅いです(測ってませんが感覚的には2~3mm位かな)。ストロークというよりキーの遊びに近く、キーベロシティーを上げようにも加速区間が短すぎます。当然、弦に触れてから押し込むと音程が上ずってしまいますし。だから「強弱が付けられる楽器」という程明確な強弱は付きません。
また、ちょっと触れただけで音が出てしまうので、キーの幅が狭いことも相まって簡単に余計な音を出してしまいます。チェンバロや生ピアノは勿論、非常にベロシティセンシティブなシンセ(ソフト音源)と比べても、こんなに繊細なタッチが要求される鍵盤楽器は他にないでしょう。
ただ、音が出てから指に伝わる振動や弦が撓む感触は独特のもので、病みつきになるのも判る気がします。キーベロシティーではなくタッチで微妙に音程と音色をコントロールしてる感じでしょうか。超初心者の僕には「お前にはピーキー過ぎて無理だ」と楽器に言われてるようですが、そこが逆に「こいつを弾きこなしてみたい」というチャレンジ精神を掻き立てられるとも言えそうです(^^)
構造
一番意外だった(というか僕の勘違いが顕著だった)のは、弦の共有の仕方です。不協和音程の代表格、短9度とかで共有させているのかと思いきやさに非ず。隣り合う半音で共有しているのでした!この時代は半音でぶつかるようなコードは弾かないからだそうです。
よく考えたら、短9度で共有しようと思えば弦長は2倍強の開きですから、音域によってタンジェントの間隔が全く違ってしまいますね。一方、鍵盤上のキー同士の間隔は同一音程なら同じですから、低音部だとそこから奥に向かって極端に湾曲したキー(レバー)が必要です。これが半音違いだったら、弦長の差はキーの間隔より広いとはいえ短9度と比べれば僅かだから、レバーの湾曲はそこまで酷くならないと。
因みに、半音程を同時に弾かないとは言え、半音階のトリルや上昇/下降は当然あるわけで、その場合は前の音のキーをちゃんと戻してから次のキーを押さないと音が出ないことになります。正確に言えば、音が上昇する時は右方向に振動弦が短くなっていくので、前のキーを押したままでも次に押したキーの音が鳴ります。しかし、問題は下降する場合で、例えばAのキーを押したままA♭のキーを押しても、弦が振動しているのはAのタンジェントとブリッジ間のままなので、Aの音が鳴り続けるだけです。
尚、弦は真鍮製で各音に2本ずつ張ってあります。写真では判りませんが現物をよく見ると、音域によって弦の太さが微妙に違います。ただ、巻線は無く全てプレーン弦なので、音域による弦長の違いは見ての通り顕著です。ちなみに、テンションは触った感じアコギと同じくらいかな(かなり適当^^;)。
弦の総本数はもし専有弦タイプなら51鍵x2=102本ですが、この楽器は2音か3音を1セット(2本)の弦で共有しているのでトータルで50本以下になるはず。ところが、現物の弦の本数(チューニングピンの本数)を数えると80本弱ありました。あれ?計算合わないじゃん、という事に家に帰ってから気づいて、撮った写真をチェックしたら・・・低音部分はほぼ一音に対して一本の専有弦になってるみたいですね、なーんだ^^; 弦長が長すぎて、半音違いでもフレット間隔が長すぎるという事でしょうか。
他のバリエーション
なお、これより更に小さなクラヴィコード(61鍵シンセくらい)も置いてありました。音域(最低音〜最高音の間隔)は上の楽器と同じですが、一番下の1オクターブが「ショートオクターブ」と言われる音配列で、要はナチュラルキーの音しか無いのです。この音域はベース音しか無いから、半音階は使わない前提だそうです。
しかし、キーボード自体は何故か普通のものと同じで、黒鍵(正確にはシャープ・フラットキー)もあります。つまり黒鍵はあるけど黒鍵の音は出ないという事です。じゃあどうなってるかというと、最低音域は黒鍵だけで全音階が進み、ある音から上は少し下の白鍵に戻り、今度は白鍵だけで全音階が出る(この部分は通常通り)という事らしいです。ややこし~^^;
一方、専有弦タイプは置いてませんでしたが、聞けば弦を共有しない上に音域が広いのでスクウェアピアノくらいのサイズになってしまうそうです。じゃあ、音域は共有弦タイプと同じくらいで良いから、もっとコンパクトな専有弦タイプ(弦の本数は多くなるが最大弦長は変わらないもの)はないのか?と尋ねたら無いそうです^^; どうも共有弦=コンパクト、専有弦=巨大という住み分けになってるようですね。