ポジション/足つき/取り回し
足つき性を他のオフ系車種と比較するとこんな感じ↓(数値が大きいほどシートが高い)
KLX250(08-):100
WR250X:95
DR-Z400SM:85
D-trackerX:75
身長167cm体重74kgの僕には、WRは一般公道では実用に耐えない高さだが、DRZはそれより明らかに低く何とかなる。ただ、オフ車系全般に言えることだが、体重をかけないとサスが伸びるので、乗り降りで傾けた時にあせる事がある。
また、知らないうちにマフラーカバーを蹴って靴の跡がつく(消しゴムで消える)ので、股関節の柔軟性を上げるか、自転車のケンケン乗りをマスターすべし。軽量なのでサイズ(長さと高さ)的にはZ750より明らかに大きいのに、駐輪場などでの取り回しは遥かに楽。
パワートレイン
発売当初の試乗会(初期型)はビックシングルらしからぬスムーズさの反面、低速トルクは250並に感じた。2006年くらいのマイチェンからキャブレターの形式の変更などで特性が変わったようだ。以下後期型であるマイバイク(09モデル)について記載する。
低速の力強さは増したが、前期モデルのスムーズさは無くなり、それなりにバリバリ感のあるサウンド。ただ、昔の空冷シングルのようなドロドロした回り方ではないし、400シングルとしては振動が大きいということはないと思う。
ドコドコ感のある回転域で流しても、例えばWR250Xより一回り強力で、十分クルマの流れをリードできる。更にギュイーンと鳴る回転まで引っ張ると(タコメーターがないので感覚的な表現)、一気にパワーが増してサスガ伸びきるほど加速する。
気になっていたエンブレも、低いギアで回さない限りそれほど強力ではなく、250シングルエンジンと大差ない。ただ、トルクはあるけど粘りはないので、特に慣らしの頃は、回転を落としすぎてノッキングを起こしがちだった。
高速巡航は90km/hくらいまでならあまり疲れずに巡航できるが、トルク的にはもう1段高いギアがあっても十分走れそうなので「幻の6速」に入れたくなる。単気筒なりにエンジン振動はあるし気持ち良い音でもないので、100km/h弱の都会の幹線道路を走っても遅くはないが面白くはない。
あと、スズキにしてはと言っては失礼だが、ミッションタッチは悪くない。精密な感じではないが、ポコッとしたクリック感を伴い軽く入る。慣らしの頃はよくギア抜けしたZ750よりタッチも確実性も上。
燃費は街中:田舎:峠=3:4:3位の比率で走って24km/L弱まで伸びる。
ただ純正の鉱物オイルを入れた場合の劣化は早く2500km位で体感できるほど汚れる(詳しくは右の「DRZ4500kmインプレ」へ)
ハンドリング/乗り心地
サスペンションはフラットで速度が低い試乗コースでは良さがあまり判らないが、ワインディングで乗ると超面白い。ギャップ吸収と姿勢バランスの良さ、軽量な車体とクイック過ぎないディメンジョンのお陰で、コーナリングは自由自在。
重量とパワーにシャシが負け気味な直4ネイキッドと比べると、ワインディングでは恐怖感は3割減、速度は2割増しと言う感じ。他のモタードと比較すると、DトラXの突っ張ったようなサスに比べると遥かに上質だし、WR250Xのように姿勢変化が大くない。
ただ、WRほど軽量感はないしマスが集中してる感じもない。特にフロント付近が重く高重心な感じで、極低速ターンでバタッと倒れそうになることがある(意識してリーンアウトすべき)。想像だが、ベースとなっったDR-Z400Sの正立フォークに対して、SMの倒立フォークが重くて高重心なのではないか?
セルフステアはデフォルトでは若干弱い(コーナーで突っ張る感じ)かもしれないが、サスのダンピング調整で幾らでも好みのフィーリングに変えられる。セッティングの幅も広いが、ワンクリックでハンドリングの違いを体感できるハイグレードなサスペンション。
よく問題になる細いシートによるお尻の痛さだが、僕の場合は当初2時間くらいならノープロブレム…だったのだが、走行距離が伸びるに連れシートが柔らかくなり、連続1時間、1日2時間程度がしか我慢できなくなった。よく「シートが硬いからお尻が痛い」という人がいるが、僕の場合むしろ逆でスポンジが柔らかいと尻の割れ目に食い込んで痛くなるのだ。
タイヤ(リア)については純正のD208が4000kmも持たなかった。次に履いたα12も5000kmでズルズルだったので、バイクの特性によって消耗が激しいのかと思いきや、次のAngel STは1.4万kmほどもった。「ダンロップは先に逝く」だけだった(*_*;
尚、純正タイヤは表示幅(140mm)よりワンランク幅広(リムも幅広)なので、交換用タイヤは150サイズが適当。そうすると選択肢が少なく、結果的にAngelSTは160サイズを履いている。(右の関連リンクを参照)
総合評価
モタードらしく混雑した街中を機敏に走るのは得意だが、流れの速い幹線道路で走っても楽しくはない。エンジンもシャシも適度に緩慢なので、マッタリツーリングも許容するが、お尻が痛すぎて長距離は無理。
やはりDRZのメインステージはワイディングだろう。それもの中低速な峠(飛ばしても80km/h位まで)で乗るべき。伊豆で言えば芦ノ湖や伊豆スカイラインではなく椿ラインあたり。関西では龍神よりも六甲や北摂。
だから僕が東京に住んでいたときにはこのバイクは選ばなかったと思う。峠までの長い移動を考えると、同じ400でもGSRかグラディウスの方が良いと思う。でも家から5分でワイディングという北摂の山間部に住んでいる今は、これほど楽しいバイクはない。
モタード同士で比べると、実売価格はWR250Xより4-5万円安くて、シャシの安定感とトルクと足つき性はDRの勝ち。ルックスと軽快感ではWRの勝ち。自分で車検に行く人にとってはレギュラーガソリン仕様のDRZがランニングコストで勝ち。となればトータルバランスで最優秀賞。
もっとも、KTMやハスクバーナのような本格的なモタード(保安部品を付けたレーサーに近いかな)と比べたら少なくともノーマルでは非力だし、競技レベルではどうイジっても重さがネックになると思う。DRZは軽量・ハイパワー・足長サスと言ったモタードの特性を活かした、ストリートスポーツというのが適当だろう。
5年ほど乗ったまとめとしては、シートや重心が高めなのは許容範囲。結局最後に残った欠点は物理的にはおしりの痛さ、そして精神的にはシングルなりにがさつなエンジンだけだ。
セロー系のように高速でふらついたり膝が曲がりすぎてだるいということもない。オフ車以外のあらゆる250より軽量、高速移動しない限り十分以上のパワー、そして高品位なサスと僕の要求仕様をほぼ満たしていた。本来バイクにはこれ以上何も要らないし、何も引かないでほしいと思う。
だから、こういうバイクがもう新車では買えないことは残念だ。DRZのエンジンをベースにFI化して排ガス適合させ、Dukeのようにオンロードバイクのシートを付けて、値段もお手頃なマシンをスズキは出してくれないだろうか?