ミニキャブ・ミーブ(Minicab MiEV)試乗レポート2012-03-31
三菱の電気自動車第二弾:ミニキャブ・ミーブの試乗レポートです。偶々バイクで通りかかった三菱のディーラで、尋常の塗装じゃないミニキャブを見かけ、飛び入りで試乗させてもらいました。
場所は国道171号という、西宮と京都を繋ぐ幹線道路で、交通量が結構有る割に速度もそこそこ出ます。なので、ここで他車に負けないなら、大抵の街中は大丈夫でしょう。それでは早速、試乗インプレいってみましょう!
動力性能
出だしは流石にEVらしく、フワッと太いトルクが発生するのはとても気持ち良い。加速感としては普通の軽自動車は勿論、スイフト1.2Lなどのリッターカーと比べても明らかに強力。喩えれば、出だしはインプレッサ2.0L並で、その後の加速はティーダの1.5L (このクラスとしては速い)位だと思う。
i-MiEVと比べてスペック上はパワーダウンしているが(モーター自体は同じで、恐らく電流制限)、街乗りでの加速感は同等だった。恐らく減速比を大きくしていると思われ、その為i-MiEVの方が加速に伸びやかさを感じる。よって、ミニキャブ ミーブの最高速はたった100km/hらしいが、70-80km/h位までは全くパワー不足を感じない。通常の混雑度の幹線道路(R171)を、高架橋の上り坂を含め何のストレスもなく走れる。
回生ブレーキは、通常のDモードでもそこそこそこ効いて、停止時以外の速度調整は殆どアクセルの操作だけで出来る。回生が強力なBモードにすると、アクセルオフで通常の摩擦ブレーキを使ったくらいの減速感がある。ただ、ここまでやると、トルク変動が大きすぎてギクシャクする。恐らくBモードは、急な下り坂やバッテリーがピンチな時専用で、通常はDモードの減速感が調度良い。
尚、エコモードは試していない。自分で運転するなら、折角のパワーを削いでしまうエコモードは使わないと思う。
ハンドリング・乗り心地
先ず、軽バンらしくポジションがアップライト。ヒュイーンというインバーター音と相まって、電車を運転しているような面白さがある。所謂セミキャブの割に、室内の狭さは感じなかった。垂直に近いAピラーや高い天井(ハイルーフ仕様)のお陰で開放感があると同時に、大きな乗り物を運転している感覚がある。
ハンドリングは交差点を曲がる位しかしていないのでよくわからないし、ガソリン仕様のミニキャブに乗ったことが無いので比較もできない。ただ、通常の軽トラよりしっとりと落ち着いていて、アンダーステアもオーバーステアも無いニュートラルな感じ。
乗り心地は、軽自動車としては重厚で(実際に重い)快適。ただ、路面の悪いところを通過すると、バタバタゆすられる感じはある。多分これは体に対するショックというよりも、ボディー剛性が低めでミシミシという音を感じていると思われる。とは言え、ガッチリボディーでシャープに旋回するようなクルマではないので、若干ヤワなボディーもふんわりしたテイストに合ってると思われる。
因みに、同乗した営業マンにガソリン仕様と比較して乗り心地はどうかと尋ねたら、意外にもEVの方が固く感じるかもと言っていた。というのも、EVは重量がある為、1ランク高荷重用の硬いタイヤを履いているかららしい。ただそれなら、重量と相殺されるはずで、実際に乗ってもゴツゴツ感はあまりなかった。
エクステリア/インテリア
外観は「電気自動車運転中」という派手なステッカー以外は、至って普通の軽バン。ただ、営業マンによれば、バッテリーを床下に積んでいるため。若干フロアが高い(ホイールとボディーのクリアランスが広い)らしい。
インテリアは軽バン(商用車)そのもので、内張りも殆ど無く、簡素というかスパルタンな雰囲気を醸し出している(早い話が安っぽい)。インパネもベースのミニキャブそのもので、メーター部分だけアイミーブのものをとって付けた感じ。
なので、EVらしさとか240万円もするクルマのプレミアム感は皆無だが、コストダウンの為には致し方なかったのだろう。まあ、商売などで内外装をリフォームする為のベース車と考えれば良いのかも知れない。
航続距離
よく問題になる航続距離について、カタログスペックと営業マンに聞いた実際の値をまとめると大体次のようになるようだ。
バッテリー容量 | JC08モード | 実際(冷暖房オフ) | 実際(クーラーON) | 実際(ヒーターON) |
10.5kWh | 100km | 約80km | 約60km | 約50km |
16kWh | 150km | 約120km | 約90km | 約75km |
ヒーターを使うのが最も電気を食い、JC08モードの約半分になるという。これはよく言われる話なので、本当に自分で計測したかどうかは判らない。当然「走り方による」というお決まりの注釈が付き、僕が住んでるような山間部(アップダウンが多い)だと、航続距離はさらに短くなるとも言われた。
尚、試乗したのは10.5kWhの方で、バッテリ残量計は8-9割位。走行可能距離はエアコンOFFなら80km台を示すが、エアコンをONにすると途端に60km台に低下した。これは瞬間電費ではないらしいが、加速時や減速時でも結構頻繁に数値が変わるので、この値に一喜一憂しても仕方がないと思う。
充電について
ご存知チャデモ方式で、急速充電用と定電圧用の2つの充電ポートを持つ。これらのポートは、日産リーフのように同じ場所に並んで付いているのではなく、左右の同じ位置(フロントドアの下)に振り分けられている。ボデイーに印等は無いので、どっちがどっちかは蓋を開けてみるまで判らない。
まあ、これはオーナーになれば覚えるかも知れないが、それより問題なのは構造的な複雑さ。2系統の充電経路を左右に振り分けるのは、普通に考えてコストアップ要因。リーフのように一箇所に纏められなかったのは、単純にスペースの問題だと思うが、2系統の充電ポートが必要という事自体がチャデモ方式の本質的欠陥である。
それと、家庭などの交流電源に関しては、初期型のi-MiEVは100V/200V両方で使えたが、現在は購入時にどちらかを選ばなければならないという(i-MiEVも同様)。理由は安全性の向上らしいが、どちらかを取ればもう一方が使えないとは不便だ。
というのも、普通に家庭用の100V電源で充電すると、単純に2倍の時間がかかるだけでなく、他の家電と共同なので、場合によってはそれ以上時間がかかるという。また、三菱や日産のディーラにある充電スポットの多くは、急速充電器ではなく200Vの充電器らしい。となると、普通は200V仕様を選択し、自宅は200V電源の工事をするだろう。しかしそうすると、訪問した知人の家でちょっと電気を分けてもらう、と言うことが出来なくなってしまう。
まとめ/雑感
このミニキャブミーブはヤマト運輸で既に稼働中だが、こうした短距離・同一ルート・ストップ&ゴーという条件は、最もEVに適した使用方法だと思う。それなら、高価なEVを購入しても、ランニングコストで元を取るのも難しくないだろう。一方逆に、長距離でルートが決まっていないような使い方なら、そもそもEVは選択肢に入らないくらい不適となる。
では、一般家庭用ならどう言う使い方が考えられるか?先ずは、近所の買い物、片道20km位までの通勤だろう。しかしそれなら、巨大な荷室は必要無い。なので、ここにバイクやレーシングカートでも積んで、週末はモータースポーツといきたいところだが、行けるのは精々ホームコースくらいで、遠征はとても無理。あと思いつくのは、ガソリンスタンドが殆ど無くなってしまった過疎村での農業用、及び日常の足くらいか?その場合は軽トラのEVの方が良さそうだが。
補助金をフルに使えれば、最低170万円からという、現在最もお手頃なEVだが、個人用としては使い方は限定されてしまう。また、特にEVに拘らなければ、同じ価格で遥かに豪華で動力性能にも優れた(特に高速)クルマが買える。EVだからと特別扱いせず、冷徹に費用対効果で勝負できる初めてのEVだと思うが、今のところそれは業務用に限られるという事かもしれない。