2014宝塚ベガ音楽コンクール2014-06-27
僕は近場で無料のコンサートやコンテストがあるとチョクチョク出かけるんですが、今回もその一つ、宝塚ベガ音楽コンクールのピアノ部門予選を見に行ってきました。
ここでピアノの演奏を聴くのは昨年の学生音楽コンクールに続いて2度めです。その時は小学生の部から聴いてたんですが、低学年でも結構大きな音を出すなあと思ってたら、高学年では更にパワーアップ。中学生だと耳が痛くなってきて、高校生でギブアップというほど僕にとっては爆音でした。逆に、音量が小さめで音数が少ないパートだと、ハンマーが弦を叩くコンコンという音が耳についてしまいました。
使用ピアノはこの会場の備品であるスタインウェイのD274というフルコン(お値段約2000万円)ですが、370席と小型で非常によく響くベガホール(演奏者の息遣いが聞こえるほど)に対してオーバーパワーじゃないかと思いました。
2014ピアノ部門予選
さて、今回のコンクールは学生枠ではなく無差別級なので、十代位の人から上は30代中盤くらいには見える人まで出てました。また、関西だけでなく、東京からも結構エントリーしていました。
ピアノの音の方は、覚悟したほどきつくはなく上述のコツコツ音も殆ど感じませんでした。もしかして昨年は買ったばかりで硬さが残っていたのが弾きこまれてマイルドになったのでしょうか?それとも調音方法を変えたのでしょうか?
ただ、皆さん音数の多い激しい曲ばかり演奏されるので、音色はともかく音量という意味ではやはり爆音レベルでした。続けて5人も聴いてると、耳の奥が火照るようにしびれてきます(*_*;よって、初日は午前中だけ、2日目は午後3時過ぎまで休み休み聴いてました。ロビーのスピーカーで流れる音の大きさで僕には十分で、それでは耳休めにはならないので、隣の図書館で1時間ほど休憩してました^^;
課題曲
先ず課題曲として、ショパンの「12の練習曲」作品10又は25の中から1曲演奏する事になっています。つまり全24曲の中から選べるのですが、圧倒的に多かったのがOp.10-1とOp.10-4です。後でプログラムを数えたら、参加者全72人中22人がこの内どちらかを選んでいました。どちらも音階練習みたいな曲で音量的にもデカイという^^;
下の動画はポリーニの演奏で、これでも十分激しいですが、皆がこれほどスムーズに弾ける訳ではなく、肩に力が入った感じでつっかえたりすると、更に聴いててしんどいのです。
因みに、ショパンのOp.10といえば、3番の「別れの曲」や12番の「革命」が有名ですが、これらを演奏した人は2日間通してゼロでした。有名どころでは5番の「黒鍵」やOp.25-11「木枯らし」を弾いた人がポツポツ居たくらいです。誰でも知ってるような曲を弾くのは素人っぽくてかっこ悪いとでも思って居るのでしょうか?それとも、ポピュラーな曲≒メロディックな曲を表情豊かに弾く自信が無いのでしょうか?
自由曲
課題曲に続いて自由曲を1曲演奏し、トータルで7分以内に収めるというルールです。自由曲だから何を弾いても自由な筈ですが、ここでも何と20人がラフマニノフの作品33/39番「音の絵」を演奏していました。こらも夫々9曲*2=合計18曲あるようですが、殆どは作品39の第1曲と第9曲でした。これまた、音数の多くて激しい曲です。少しでもでかい音を沢山出したほうが勝ちとか^^;?
上の動画は全く関係ないコンクールでの演奏ですが、僕が聴いた演奏はこんなに強弱がなく、ほぼ一本調子で終始ガンガン鳴ってる感じでした^^;リハーサルあるいは本番で会場がライブ過ぎると感じたら、音量を抑え気味にしたりペダルの使い方を控え気味にしたりしないのでしょうか?それとも、演奏者には客席でどのように聞こえているか判らず、とにかく練習通りに指や足を動かす事しか考えていないとか?
というわけで、課題曲/自由曲共に「音の絵」どころか「音の洪水」のような演奏を延々と聴かされ、ギブアプして帰ろうかと思った矢先、耳に留まる演奏が始まりました。エントリー#43の大井手 慶さんと仰る、物腰柔らかそうなサラリーマン風の(失礼)の方です^^;
課題曲はデファクトスタンダートも言うべきショパンのOp.10-4ですが、他の演奏とは明らかに違ってソフトでスムーズなのです。やっぱり、ちゃんと判ってる人は判ってる、聴衆の視点に立った大人の演奏です(^^)自由曲は珍しくポピュラーなリストのラ・カンパネラ。これも超絶技巧を感じさせないスムーズでソフトな演奏でした。若干つっかえた部分があったような気もしましたが、あまり気にならないというか良くわからない^^;
次に演奏した岡本知也さんも、大井手さんに似た雰囲気で好印象でした。2人に共通するのは、比較的高齢であることと長身であること。だから無闇に体重を乗せてガシガシ弾くのではなく、肘から先だけで弾いてる感じ。僕はこのくらいのバランスが、ピアノという楽器と弾き手の体格がマッチしてるように思います。小柄な女性が大きなグランドピアノと格闘している様は、失礼ながら痛々しいというか体育会系というか^^;。
他に気に入った人は、54番の福田優花さんです。彼女も女性らしく(^^;)ある程度ガンガン弾くタイプで、曲もド定番の爆音系ではありましたが、音がつっかえず比較的スムーズに流れるので聴きやすかったです。そして何よりルックスが良い(^^)顔が小さくスタイルが良く、顔自体も遠目だからハッキリ解りませんが多分可愛いでしょう。
使用ピアノ
ところで本コンクールでは、何と例のスタインウェイの他にヤマハ(CFⅢ)とヘーゼンドルファー(型番不明)がステージにスタンバイしていて、その中から好きなピアノを選んで演奏できるのでした!と言っても殆どの人はスタインウェイを選びますが、時々ヤマハかヘーゼンドルファーを選ぶ人が居ると、スタッフが6人ばかり(多分殆どは調律師)ステージに出てきてピアノを入れ替えます。
夫々のピアノについて感じたことを挙げていくと、先ずスタインウェイは上述のように昨年聴いた時より音が若干円やかに感じました。ただ、スタインウェイの基本的な音質は、ちょっとカリカリした感じが実は以前は苦手でした。今は慣れたせいか嫌いではありませんが、やはり明るめで高音強調型だと思います。最高音域のキラキラした透明感の反面、中高音域(C5〜E6くらい?)がややシャリシャリと音痩せしたように感じます。
ただ、DTMなんかでアレンジしてるとよく判りますが、音を沢山重ねるほど中低域が飽和して篭ってしまいがちです。逆に1音1音は軽くてショボイローランドのMIDI音源で分厚いオケを作るといい感じに鳴ったりします。それと同じでピアノの場合も、今回聴いたような音数が多く音量が大きく音域が広い曲ほどスタインウェイが最も破綻が少なく、キラキラキャラが生きてくると思いました。
次にヤマハですが、これも実はギンギンゴンゴン五月蝿く重々しく、個人的には苦手なタイプです。今回、スタインウェイと比べて基本的には似てると思いました(サイズやシェイプもほぼ同じ)。ただ細かく言えば、スタインウェイが硬めで明るめだとすると、ヤマハは硬めで暗め。ジンジンした弦鳴りはヤマハの方が強く、ガンガン弾くとスタインウェイよりむしろ硬い音質に感じました。
これは電子ピアノでよく感じる事なんですが、中高域がやや軽い音質のスタインウェイ(のサンプル音)に対して、ヤマハはその音域で密度感があるように思います。ソフトにコードを弾くと繊細で深い味わいですが、ハードに弾くとちょっと重い感じ。逆に、最高音域はちょっとカリカリと痩せた音で、スタインウェイの方が透明感が有るように思います。
最後のヘーゼンドルファーは他の2台とは明らかに違い音質が柔らかでした。良く言えば円やかですが、悪く言えば地味で篭りがちとも言えます。更にサイスが他より一回り大きい為低音のパワーが凄いんですが、ウーハーを追加したようにちょっと過剰な気がしました。音がカリカリしてキツイので、EQで高音をカットし低音をブーストしたからって、良い音になるとは限らないということですネ。
このように、夫々のピアノの得意な曲や演奏スタイルがある事が判りましたが、ヤマハやヘーゼンドルファーを選んだ人がそれらの特性を活かした演奏又は選曲をしたたかというと疑問ですね。殆ど皆、音数/音量大の曲ばかりで、それならスタイウェイで良いんじゃないかと。
審査結果
審査結果つまり予選通過者は全演奏終了後に会場で発表されます。僕は最後まで居なかったので、その日の夜に公式サイトに記載される結果を見ることにしました。僕の予想では、福田さんは個人的なルックス点が入っているので微妙なところですが、大井出さんと岡本さんは予選通過してるだろうと思っていました(僕が聴いてない人達に偶々上手い人が固まってたということでもない限り)。
ところが公式サイトで発表された審査結果を見てガックシ、両名とも予選通過者のリストには入って居ませんでしたガ━━(;゚Д゚)━━ン!! 逆に福田さんは入ってました。福田さんの前の女性3人も通過していましたが、僕が聴いててあまり上手いと思った人は居ませんでしたけど・・・
このコンテストの審査基準って一体何なんですかね?音数*音量*正確さ=点数 なんでしょうか(*_*;? それは極端にしても、フィギュアスケートのように曲の難易度に応じて最高点が設定されていて、それに完成度を掛けて点数が決まるとか?
とにかく音楽表現は2の次で、如何に指が速く正確に動くかという運指技量コンテストの様相です。これじゃ体育会系どころか、小技を含めたスポーツ競技以上にマッチョですね。パワーとスピードそして正確性が命。ゴルフに喩えるならドラコン、モータースポーツに喩えるならドラッグレースというところでしょうか。
まあそれはともかく、出演者にピアノを教えてる先生が審査員の好みを熟知していて(場合によっては旧知の仲で)、どんな曲をどのように演奏すれば受けるかを熟知してるのではないでしょうか。そして、そういう先生に生徒が集まり、そうではない先生(例えば、人と違う曲をやらせるような先生)には集まらない。これって、審査員とコーチの談合?
また、失礼ながら審査員の皆さんを一瞥したところ結構ご高齢のようで、僕が爆音に聴こえる音圧レベルが丁度良いのかも知れませんが、若い演奏者があんな爆音で毎日練習して難聴にならないか心配です。
尚、大井手さんは演奏終了後にロビーでお見かけしたので声を掛けようかと思いましたが、周りの人が居なくなるのを待ってるうちに(だって他の出演者の間近で「皆五月蝿かったけど貴方の演奏は良かったです!」なんて言えないでしょう)、何処かに行ってしまいそれっきりでした。
それでも予選は通過するだろうから、本戦でまたお会いできるだろうと思っていたのにこの結果(;_; まあ、彼ほどの腕前の人が地方のコンクールでの評価を真に受けて落ち込んでるとも思えませんが、折角遠く(東京)から来られたわけですし「(審査員は認めなくても)僕は良かったと思います」とひとこと言いたかったです。
感想・まとめ
まあネットを見ていると、音楽コンクールの審査結果に対して出演した子供の親から不満が出るケースは少なくないようです。あのショパンコンクールですらあの人が優勝?みたいな世評があるようですね。僕も聴いてみましたがなんじゃこりゃ?ですね^^;音は硬いし顔は草臥れてるし(顔は関係ないか^^;)。
だから、一地方のコンクールに対して、部外者がムキになって文句を言うのも変かも知れません。そもそも、芸術に優劣を付けるのは無意味だから、コンテストの結果なんて気にしなくて良いという理屈も判ります。しかし、特にクラシック音楽の場合、コンテストの上位入賞者でもないと世の中が振り向いてくれないという現実もあろうかと思います。その意味ではコンテストが音楽界を誘導してると言えなくもありません。
実は数年前に、このホールでスーパーキッズオーケストラの演奏を聴いたのですが、それがあまりにも素晴らしく、日本の音楽も昔と違ってテクニック一辺倒を脱し、文化的に成熟したなあと思ったのです。彼らは子供の習い事的な押し付け感も無ければ、場馴れしたプロ臭さも勿論無く、実にのびのびと感性のままに演奏していました。
しかしその一方で、未だにピアノ技量コンテスト的なものが日本各地で行われそして権威化され、それに向かって多くのピアニストがエネルギーを費やしているとしたら、一般リスナーを含む音楽シーンにとって良いこととは思えません。
そこで、勝手にコンテストを企画してみました。タイトルは、実質ピアノ技術コンテストになっている「音楽コンクール」へのあてつけとして、「音楽性コンクール」。
課題曲はショパンの前奏曲第4番作品28。この曲はショパンの中では超絶簡単技巧を誇り、反面楽譜通りに弾いたら単なる8分音符の連打にしかならないという、正に音楽性が問われる曲です。
自由曲はクラシック、ジャズ、ポップス何でもOK。何ならオリジナル曲でもOK。審査員は音大教授やピアノ教師など従来のコンクール関係者は除外(ただし現役のプレーヤーはOK)。業界関係者としては、音楽ショップやFM放送、イベントの関係者(ただし60歳まで)。あとは、出演者とは無関係の一般リスナーから審査員を公募とか。