EV -- MCタイチ

スーパーカブ電動化計画⑦電気回路2010-11-06

「EVは内燃機関に比べて構造がシンプルになる」といわれますが、「流石に配線とか電気系だけは複雑になるでしょ」と思うかも知れません。しかし僕の電気カブは元のカブより遥かにシンプルな電気配線になってしまったのでした。

エンジンバイクの電気系

理由は、EVは電装品に必要な電力もバッテリーから取るだけなのに対し、従来車はエンジンで発電器を回し交流を直流に変換しバッテリーに蓄える、と言う仕組みが別途必要だからです。 加えてエンジンそのものも電気を使います。ベースのカブはシンプルなキャブ車ですが、それでもCDI⇒イグニションコイル⇒スパークプラグと言うものが必要です。

ちなみに、今主流のフューエルインジェクション(FI) なら最低でもクランク角センサ⇒マイコン⇒FIが必要です。更に今時の四輪ならスロットルポジションセンサ、O2センサ、吸気温センサ、ATセレクタセンサ、…数え切れないほどのセンサ情報をECUが総合的に判断し、点火や燃料噴射のタイミングと量、更にはATの変速などを制御しているのです。

かくして昨今のクルマは巨大な配電盤、若しくは動くLANみたいになっています。これをもって昔気質のカーマニアは「電気仕掛けのクルマなんぞに乗りたくない」等とのたまいますが、電気仕掛けじゃないクルマなんて昔から無いのですよ。

電気カブの電気系

一方EVの駆動系は、基本的にはバッテリー(含むPCM:充放電制御モジュール)、スロットル、コントローラ、モータだけです。内燃機関車は燃焼を電気でコントロールするのに対し、EVは電気モータを電気でコントロールする。どちらが率直か明白ですよね。

駆動系の回路

controller_wiring2前置きが長くなりましたが、右が我電気カブの中心となる駆動系の回路図です。この配線図はコントローラKellyのマニュアルにあった配線事例をベースに加筆しました。

変更点はリバースコンタクタ(前進/後進切替スイッチ)が無いので消して、モータを直結した事。そして、12Vの電装品を駆動させる為にDC-DCコンバータを装備した事です。 以下、パーツ毎に解説します。

コントローラ

KDSコントローラ一式

コントローラとは、バッテリーから入力された電圧(ここでは48V)を、スロットル開度(電気信号に)に応じた電圧へ落としてモータへ出力する装置です。 なのでコントローラはガソリン車のキャブレターによく喩えられます。昨今のエンジン車で言えば、FIやECU、ミッションコントローラをひっくるめたような、非常に重要なパーツです。PCに喩えるとチップセットでしょうか(モータがCPU) 。

ただ、電圧を落とすといっても、昔の電車やおもちゃのクルマのように可変抵抗を入れて制御している訳ではありません。パワートランジスタで所謂PWM(パルス幅変調)を行います。 ちなみに交流モータやブラシレスDCモータ(実質的には永久磁石型交流モータと同じ)では、電池の直流を交流に変換するインバーターの役割もコントローラが担います。なので、コントローラのことをインバータと呼ぶ事もあります。

さて、僕が買ったコントローラは、Kelly社の中では一番小型・廉価なKDSというシリーズです。それでも、電気スクータに付いているものよりは確実に高性能・高機能な製品で、次のような特徴があります。

  1. ハイパワーMOSFETを搭載し16.6kHzで駆動
  2. LEDを繋げると、点滅パタンでエラーコードを表示
  3. ヒートプロテクション機能により50℃以上で自動的に稼動を制
  4. PCのSCASIポートに接続し、各種設定が可能。例えば;

最後のプログラム機能は、専用のコネクタが必要ですが、KellyのサイトにあるフリーウェアをインストールすればPCと接続できます。 設定画面は例えば右図のようなもので、ここではスロットルが反応する範囲等を設定します。こうしてみると、ICEでは大変苦労してコストもかけて作りこむスロットルレスポンスのチューニングも、EVでは簡単にできてしまうんですね。

スロットル

スロットルグリップはKellyのサイトでコントローラと一緒に買いました。原理的には一般的なホール効果によりコントローラに信号を送るタイプですが、電気スクータのパーツ屋さんでは置いてない機種です。 穴径は一般的なΦ22のハンドルバーにそのまま装着できます。

しかしカブのハンドルはスロットル側がΦ18という特殊サイズなので、プラスティックプレートを巻いて対応しました。 長さについては、右(スロットル)側は奥まで差し込んでも、空間が開いて余ってしまいます(ハンドルバーが短いと言う意味)。 これは、付け根のメカ部分の幅だけ、グリップだけのエンジンバイクのスロットルより長くなってしまうからです。それは同時に、元のバイクの操作スイッチ(カブの場合はウインカースイッチ)に指が届きにくいことを意味します。

一方、左のグリップは長さが足らず、奥まで突っ込んでもスイッチハウジングとの間に10mmほど隙間が出来てしまいます。これは単に、元のカブのグリップの方が長かったと言う事です。 結果的に、左右で長さが違うアンバランスなハンドルになってしまいましたが、不思議な事に乗っていて殆ど違和感はありません。

コンタクタ(接触器)

コンタクタとは一種のスイッチですが、単純にバッテリ電圧(ここでは48V)の回路を開閉すると、火花が飛んで物理的ダメージを与える恐れがあるので、コイルを介して徐々に開閉する仕組みです。なので、子供用のおもちゃ等よほど低電圧なもの除き、殆どのEVにはコンタクタが付いている筈です。

ただ、このスイッチを作動させる為には微弱ながら電流が必要です。なので上の回路図の通り、バイパス経路に抵抗を入れて僅かな電力をバッテリーからコントローラへ供給しています。そしてキースイッチの開閉によって、コンタクタに微弱電流を流すと言う構成になっています。

このコンタクタを作動させる回路は、Kellyのサンプルが無ければ自分では思いつかないでしょう^^; そもそも、Kellyのコントローラがコンタクタの使用を前提としているようです。 ちなみに、キックボード的な電気スクータの場合は、リプレイスパーツにコンタクタが見当たらないので、どうやらコントローラがコンタクタを内臓しているようです。

DC/DCコンバータ

駆動系ではありませんが、車体の電装品(照明やホーンなど)に電力を供給する為に、バッテリーの48Vを12Vに落とす装置がDC/DCコンバータです。 一般にDC/DCコンバータは100ドル以上する高価なパーツですが、本システムでは入力電圧がEVとしては低めで、かつ出力電力が10A(つまり120W)以下でOKなので、25ドルで手に入りました(ただし送料が15ドル)。

どう接続するかは、適当な事例が見つからなかったので自己流です。やはりコンタクタでON/OFFしたいので、配線図のように駆動系と並列に繋ぎました。しかし、コンタクタをOFFしても抵抗でバイパスされているので、微弱ながら電流は流れます。 試しに、12Vの出力にカブから取り外したニュートラルインジケータのバルブをつなげてみると、微妙に光ったり消えたりを繰り返します。コンデンサに電力が溜まると点灯し、使うと消えるからでしょうか。

何れにせよこれでは、キースイッチをOFFにしてバイクを停車している時もずっと微弱な電流が流れている事になります(もっともコントローラにも同じことが言えますが)。なので、別のスイッチを使って、12Vの電装系回路をOFFしてしまう構造にしました。

全体像

デンキカブパワートレーン冒頭の回路図の実物を机の上に広げたのが右図です。例によって、スピーカと横の貯金箱は関係ありません(^^; コンタクタはフューズと共にタカチのケースに入れてあります。これは防水と同時に、充電用のXLRコネクタの台座として使用するためです。

全部繋げると流石にゴチャゴチャしてきましたが、これがメイン回路の全貌と考えるとかなりすっきりした配線と言う事が出来るかもしれません。

電装品(照明類)の回路

カブ配線図合法的に公道を走るには、当然保安基準を満たす為の照明(ヘッドライト、ウインカー、ブレーキライト)やホーンが必要です。 右図はカブのサービスマニュアルに記載された配線図で、マーカーで着色された部分が必要な部分です。基本的には、バッテリーの+/-端子をDC/DCコンバータの出力に繋げるだけです。

ただ先述したように、メインスイッチをOFFしても照明類(12V系)に微弱電流が流れてしまうので、これを避けるため照明類全体をOFFしてしまうスイッチを付けることにしました。 最初は新たにスイッチを追加しようかと思いましたが、ちょっと気転を利かせて、不要になったポジションライト(プレスカブの手元を照らすライト)のスイッチを流用する事にしました。結果は見事成功。

一方、マークされていない部分はEVにとって不要です。具体的には発電機、レギュレータ、レクチファイヤ、CDI、イグニションコイル、キャブヒータ等エンジン関係の電装品です。またこの図ではマークしてしまってますが、ニュートラルランプやギアポジションランプも不要です。 冒頭で述べたように、これらエンジンの為の電装品を外すと随分シンプルな回路になるのです。実際の配線も引っぺがしましたが、感覚的にもケーブルが半分くらいになった位のすっきり感です。

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