スーパーカブ電動化計画⑥ 鉄電池2010-10-15
本プロジェクトで最も重要かつ選定に時間を要したパーツ・・・バッテリー!その最終回答である「燐酸鉄リチウムイオン電池」(LiFePO4または鉄電池)のお話です。
リチウムイオン電池を求めて
以前の記事で述べたように、最初は鉛電池を検討したのですが、考えれば考えるほど重く大きすぎます。勿論、リチウムイオン電池も当初から念頭にありましたが、当然高価な上に海外EVパーツサイトでも品数が少なく、適当な容量や電圧のパックが見つからず諦めていました。
そんな折、ひとつの転機になったのがGoldenMotorのサイトです。ここは自転車用のハブモータの会社として以前の記事で紹介しましたが、独自のリチウムイオン電池パックも販売しているのです(右)。考えてみれば電動自転車に重い鉛電池なんてとても搭載できませんよね。
で、この電池パックが48V/12AHなど僕の要件をほぼ満たしており、勿論サイズや重量は鉛電池と比べれば天国のような小ささです。ただ、値段が$400前後でこれに送料を入れると$500近くかかってしまうのはチト痛い。
そこで例の如く広大なネットを彷徨う旅に出ました。そして辿り着いたのが、aliexpress.comです。これは中国のサプライヤから直接仕入れられるサイト「アリババ」の個人向けバージョンです。
MottCellとの出会い
するとリチウムイオン電池パックを扱う会社が幾つかありました。しかも大抵GoldenMotorより安い!その中で、最も使いやすそうな容量の電池パックをそろえていたのがShenzhen MottCellでした。
とは言え、聞いたこともない中国メーカなんて大丈夫か?と思うでしょうが、まあ聞くのはタダなので取り合えず、他に電池パックは無いか問い合わせてみました。すると「展示してあるのはあくまで一例で、当社はカスタムメイドです」という回答。「必要な電圧、電流、そしてサイズを教えてくれたら、こちらで適当なセルを組み合わせてバッテリーパックを作ります」との事。
かくして、 Sales ManagerのJean Duanさん(一応写真の女性らしい⇒)との愛の文通が始まったのでした。この彼女、親切だがちょっと頼りない所が男心をくすぐります。それに「貴方の英語は素晴らしい、先生と呼ばせてください」とかおだてられると、こちらもつい調子に乗って直接関係ない知識を披露したり・・・
バッテリーケースについて聞いたら、カスタムのモールド・アルミケースはどうですか?と聞くから「それってかなり高そうですね」と書いたら「型を製作するので、5千ドル位です」っておいおい。じゃあ、ケースはこちらで用意するって事にして、バッテリーの中身についてはやはりお手ごろ価格でした。そして、割と早い時期に次のような仕様で確定しました。
- 電圧:48V又は36V(例のUniteモーターのライナップ)
- 容量:600~700Wh程度
- オプション:30ドル程度のチャージャー
- 価格:チャジャーと送料込みで400ドル程度
LiFePO4電池(燐酸鉄リチウムイオン電池)について
ところで、この電池はリチウムイオン電池の中でも正極に燐酸鉄を使ったLiFePO4電池(通称「鉄電池」)と呼ばれる種類です。EV用として一般的なマンガン系正極のリチウムイオン電池(LiMn2O4)と比較して次のような特徴があります。(参考:LiFePO4の特徴)
- 貴金属を使わない為、低コストである
- サイクル寿命が長い(マンガン系が800回以下なのに対し、鉄電池は2000回とも言われる)
- 高温時に酸素を放出する事が無く、安全性が高い
一方、欠点としては;
- エネルギー密度で劣る
- 急速な充放電は苦手
平たく言うと、性能は少し劣るが、低コストで安定していると。つまりハードルが低く、個人ユースにはピッタリの電池ではないでしょうか。実際、海外の通販サイトでEV用のリチウムイオン電池として売られているのは、僕の知る限りこのLiFePO4だけです。日本でも、ラジコンの世界では今やニッケル水素電池に代って一般的に使われているようです。
また以前NHKスペシャルで、日本勢のマンガン系VS米中の鉄電池という視点で描かれていました。中国ではEVの路線バスが走っていて、そこにこの鉄電池が使われているそうです。
仕様検討の長い道のり
さてこの度のカスタムメイドバッテリーパック、大まかな仕様があっさり決まったは良いが、セルのレイアウト(縦横の並べ方)を決めるのに2ヶ月以上費やしてしまうのでした。と言うのも、バッテリーパックを収めるケースをこちらで用意する必要があり、尚且つケースに入った状態でカブのサブフレームに搭載できるとなると、サイズへの要求が結構タイトなのです。
ケースはタカチの防水プラボックスが非常に多くのサイズを揃えていますが、内部に凹凸があるなどして結構隙間が開く=外寸が大柄になってしまうため、ぎりぎりのサイズを狙う必要があります。ホームセンターで良く見るアルミ製ツールボックスも検討しましたが、結局適当なサイズのものはありませんでした。
また、セルを積み上げる方向とか、傾けて問題ないかなど色々と聞きました。セルの強度ついては僕のサイズのパックでは殆ど問題にならないようですが、PCM(バッテリーコントローラ)はセルの重みに耐えられないので、上面かせめて側面に付ける必要があります。
先方が色々と組合せを提示してくれて、こちらがサイズを確認する。そのうち、こちらからセルの配列をCADで作って「これで作れるか?サイズは?」と質問したりしました。しかし、Jeanさんも要領を得ないというか、PCMのサイズを間違って伝えたりと、なかなか適当な組合せが決まりません。
しかし、例によって「貴方のCAD図のように美しい図を見た事が無い」とかおだてられ、ついつい付き合ってしまいました。でも、通信を長引かせたところで先方は何も得しない筈なので、別段他意はないと思います。逆に「一人の客に良くこれだけ時間を割けるな、日本じゃ無理だね」と感心したほどでした。
バッテリーセルについて
バッテリーセルはこの会社の豊富なラインナップの中から、最大級のIFR26650Pというサイズを選びました。これは単一電池位の太さがあり、テスラ・ロードスターやミラEVに使われた18650型セルより2回りほど大型です。
更に同じ大きさで幾つかの容量タイプがあるのですが、「カタログには載ってない当社最大容量の3.3Ah」のもの選びました。「量産型ではないが信頼性も同じで、コストは微増」とのこと、ほんまかいな(^^;
そして別れは突然に
そんなこんなで、5月初めから2ヶ月超の「文通」を経た7月中旬、ようやく仕様が決定し生産開始に漕ぎつけました。納期は4週間でしたが、2週間ぐらい後様子を尋ねました。
そうしたら、別の担当者が出てきてなんと「申し訳ありませんが、Jeanは先週会社を辞めました」というではないですか!更に最悪なのは、確認すると僕のバッテリーは工場に発注されておらず、これまでの経緯も引き継がれて無いとの事。なんじゃそりゃ!
そういえば、最後の方のJeanさんは突然そっけなくなったり、何となく慌てた様子でした。一体何があったんだJean? 一人の客に時間をかけ過ぎる手際の悪さで首になったのか?それとも僕から得た「豊富な知識」なるものを引っさげて、ライバル会社に移ってしまったのか?
いやいや、それよりも僕のバッテリーどうしてくれる?・・・幸いにも新しい担当者(Jingさん)がしっかりしていたのがせめてもの救いでした。すぐにこれまでの通信をチェックしてくれて、最終仕様を確認。ところが「このサイズでは出来ない、JeanがPCMのサイズを間違っている」との返事。またかいな!
「サイズをもう少し大き目のに見直してくれないか?」と言うので、再びタカチのサイトに戻って検討。すると、以前は無かった新サイズが追加されてる!PCMを上に持って来たらピッタリのケースがあったので、それで行く事にしました。
遂に完成した鉄電池!
その後の展開は早く、2週間ほどで完成。ここで最終的な仕様を紹介しましょう。
- 使用セル:IFR26650P(3.2V*3.3Ah仕様)
- セル構成:3.2V*16pcs(直列)=51.2V 3.3Ah*4pcs(並列)=13.2Ah 合計:64pcs
- PCM:40A定格 300A瞬間
- パッケージサイズ: 220*140*155mm
- パッケージ重量:6kg
- 価格:310US$
これに充電器と送料、そしてショッピングサイトのマージンを加えてトータル402US$でした。適用レートが89.28円/$だったので、35,892円となります。円高バンザイ!
海を渡った「鉄爆弾」
発送から到着まで一週間程度だったかな? ただ今回は、税関で税金を取られてしまいました(金額なのか物品の種類なのか?他の買い物ではなかったのに)。
消費税1600円+通関料200円。
そしていよいよ、念願のバッテリーとご対面。実は完成直後に写真を見せてもらったのですが、ビニールシートに覆われてる筈が、四角い箱が紙で包まれてるのでした(右図)。かっこ悪!
まあ紙が燃えるわけではないし、どうせケースに入れるから外からは見えないのですが、どうしてもこの怪しげなケースの中を確認したいという衝動に駆られました。メールで聞くと、外装は剥がしても良いとのことなので、そうすることにしました。
包装紙(?)を引っぺがすと、テープでグルグル巻きにされたプラスティックのプレートが現れました。 それを更に分解すると、中からセルが現れました(写真)。うーん、何というか豪快な作りだ(^^;
ちなみに、この写真をTwitterで公開したら「爆弾にしか見えない」とある人から言われて、それが妙に受けたのでそれ以来「鉄爆弾」と呼んでいます。もしかして税関で停められたのも、この怪しげな形のせいなのか?
恐々導線いや銅線をテスターに繋ぐと・・・ドカン!では無く、電圧がピッタリ規定の数値になっていたので一安心。しかし裸の状態では危険な感じなので、プレートは再利用することにしました。
バッテリーパックのリフォーム
こびり付いた紙とテープを丁寧にはがし、ケーブル用の穴を開け(元の位置はちょい不都合)、何箇所か隙間を防振ゴムで埋め、最後に太目のビニールテープで各辺をシーリング。そしてそれを防水プラケースに入れたのが右の図。これでかなりすっきり、縦横高さ共まるで専用ケースのようにピッタリです。
話は前後しますが、先の記事に書いたように、モータとコントローラに繋いだら快調に回っていました。 その後何度かテストの為に空回ししましたが、その程度では全くパワーは落ちません。ただ、どの位充電して出荷したか知りませんが、あまり満充電で長時間置いておくとバッテリーに良くないんですよね。特に暑い時期だから。
充電器と充電時間
充電器は受け取って初めて見たのですが、意外としっかりした作りでファンも付いています。入力はAC120V(勿論日本の100VでOK)、出力は48V*3A(一定)という仕様です。ちなみに、バッテリーパックが13.2Ahなので、単純計算では13.2/3=4.4時間でフル充電出来る事になります。
しかし、リチウムイオン電池の充電方法は、当初は電流一定(1C程度)でバッテリーの電圧が規定値に達すると、それを越えないように徐々に電流を絞って行きます。所謂「定電流・定電圧充電」です。(参考資料:バッテリーベイサン)
もっとも、僕のシステムでは1C=13.2Aのバッテリーに対して、充電器の能力は3Aまでしか流せません。だから、初めからチョロチョロ、最後で更に絞るのスタイルなので、フル充電まで5時間位かかってしまうかも知れません。
実際に充電してみると(ずっと見てる訳ではないので正確な情報ではありませんが)、約3.5時間後に見たときには一旦フル充電のランプが点いて自動停止し、その後また充電開始と言うサイクルを約5秒おきに繰り返していました。
その時点で充電を止め、少し走ってみたらちゃんと動きましたが、フル充電出来ていたかどうかは判りません。電圧が規定値に達したので、ON/OFFを繰り返しながらチョロチョロ充電をやっていると考えればつじつまが合いますが、果たしてこのまま充電を続けて良いものなのか?
まとめらしきもの
何かと評判の良くない中国企業。「どうせまがい物でしょ」という冷ややかな視線を感じておりますが、僕はトライして良かったと思います。
車体が未だ出来てないので本当の実力は判りませんが、少なくとも予定したサイズと電圧のものは届きました(^^;企業の対応も不備があったとは言え、総じて協力的でしたし、購入後も何かと質問に答えてくれます。ちなみにこれはコントローラのKellyにも言える事です。
今回の電気カブプロジェクトはただ電気で走れば良いのでは無く、出来るだけ高いコストパフォーマンスを目指して部品を選定し実力を試すのも主要な目的の一 つです。試しもせずに「中国製なんて良いわけが無い」という偏見というか希望的観測が、日本企業ひいては日本人全体の危機感・スピード感の無さに繋がってると感じます。