スーパーカブ電動化計画⑤モータ特性と走行性能2010-08-16
モータが到着したからって喜んでばかりはいられません。モータ動力をどうやって後輪に伝えるか考えなければ。その為には適切な減速比を割り出す必要があり、更にその為にはモータの性能曲線を正しく把握する必要があります。
DCモータの性能曲線
先ずは一般的な知識に触れます。上の図は永久磁石DCモータ(ブラシ付き)の性能曲線です。
左側はトルクを横軸にしたグラフで、電圧は定格で一定の場合です(言わばアクセル全開時の特性)。そして右は横軸を回転数に変更して代わりにトルクのグラフを入れたものです(これも電圧は一定)。
右の方が車やバイクの性能曲線で見慣れたスタイルだからイメージが沸きやすいと思いますが、何故か電気モータの世界では前者のトルク横軸スタイルが基本なので、これを使ってモータの特性を解説します。
- 回転数(黄色):トルクと正確に反比例します。 つまり回り始め(起動トルク)が最も強力で、最高回転数のときトルクはゼロになります。これが「無負荷回転数」です。
- 出力(紫):トルクと回転数から出力を計算すると、左右対称の放物線になります。ピークは最高回転数の1/2のところです。
- 電流(赤):トルクに比例、回転数に反比例します。
- 効率(青):アウトプット仕事率(出力)をインプット仕事率(電流×電圧)で割ると、左右非対称な山形になります。ピークは最高出力と最高回転数の中間点です。
モーターはフラットトルク(正確には回転と反比例トルク)と言いますが、出力(パワー)にはピークがあることが判ります。
Uniteモータの性能曲線
さてお次は先日届いたUnite製1000Wスクータモーターです。これも永久磁石DCモータ(PMモータ)です。基本スペックとしてメーカサイト(今は消えてる)に次の記載がありました。
No load | With Load | |||||
Volt | Current | Rotate Speed | Torqu | Rotate Speed | output power | Current |
48V | 1.2-2.5A | 3700rpm | 3.2N.m | 3000rpm | 1000W | ≦26.7A |
ここで、No load (無負荷回転数) は判るとして、With Load (負荷回転数)って何でしょう?負荷の大きさによって回転数は変わってしまいます。定格出力を出す時の回転数という意味でしょうか?
一方、右の図は性能曲線で、”With load”のトルクである3.2N.m付近でグラフが切れています。これは冒頭で示した理論上のグラフのごく一部です。まさかそれ以下の回転数では回らない・・・なんて筈も無いし、何故こんな所で切れてしまうのか?
このモータに限らす、各社が公表しているモータ特性も同様で、高い回転数領域のデータしかありません。僕の想像では使っているベンチテスターがこれ以上のトルクを計測できないからではないかと思います。
性能曲線の予想
とりあえずデータが一部しか無くても、DCモータは理論的に全体の特性を計算できます。基本スペックを基にエクセルで全体像を描いてみました(右図)。
なんと、起動トルクは16N.m以上ある計算になります。ちなみに我DR-Z400SMの最大トルクは39N.mですから、その4割以上のトルクです。パワーもMAXで1.6kW以上出るんですね。素晴らしい!?
しかし、喜んでいる場合ではありません。最大電流が130A以上あるではないですか!これは最大30Aと解釈していた僕にとって、購入したコントローラはおろか、ケーブルもヒューズ余裕で吹っ飛んでしまう電流です。
果たして、部品選択を根本的に間違ってしまったのか?・・・ところが、モータから出ているケーブル自体そんなに太くありません。見た目は精々3.5sq位です。これに流せる電流を調べたら44Aくらいじゃありませんか。(電線太さと許容電流対応表)
実験強行!
もうこうなったら玉砕覚悟(?)で実験を強行するしかない! コントローラ(最大50A)やヒューズ(50A)など一式繋いで実際にモータを回してみると・・・何も起きません。無負荷でレーシングする位なら至って快調。ヒューズが飛ぶどころか、電線もコントローラも、そしてモータも触って全く熱くありません。一番余裕があるはずのコンタクター(100A)だけがほのかに暖かい程度です。
これはつまり・・・130Aどころか50Aも流れていないと言う事です。コントローラは30Aが定格なので、それ以上流れたら多少は発熱するはず。それが感じられないという事は多くても40A程度だと推測します。
正確な電流は後日、電流計を買って調べたいと思いますが、何れにせよ最大電流が理論値より遥かに低い値と言う事は、パワー・トルク曲線も理論値よりかなり低いと言う事です。上のグラフで言えば、電流が40Aまで上がって折れそのまま水平だとしたら、トルクは下に折れ曲がって頭打ち、パワーも右2/3がごっそりえぐられた形になるのではないでしょうか?
******************10/28 追記分*********************
走行抵抗と減速比の検証
ここで減速比を検討する為に、バイクやクルマのカタログに出てくる(今はあまり見ないな)「走行曲線」を作ってみました。
右肩下がりの複数の直線は、4種のギア比(ドライブ/ドリブン、スプロケ歯数比)でのモータの駆動力です(凡例の”@”以下がギア比)。ちなみに@5.75というギア比は今装着しているスプロケの組合せです(このほかにもう少し大きなドライブスプロケがあります)。
直線の右端が回転数が最大効率の3000rpm時の点です。更に線を伸ばして駆動力がゼロとなった点が無負荷回転数(3700rpm)の点です。走行抵抗はネットにあった原付のグラフを真似して描きました。
例えばここで、勾配ゼロで最高速を出すには、描いた4本の直線より更に高いギアが必要になります。しかしそれでは、3000rpmまで回る前に走行抵抗と吊りあってしまいます。この4本のグラフの中では一番低速である@5.75だけが3000rpmをクリアしています。その時の速度は57km/h位なので、目標の60km/hをメータ読みでクリアできるレベルですね(^^;
何れにせよ今後は、断りの無い限りこのギア比@5.75を前提に考えて行きます。
駆動力と電流
さて、下のTatsuyaさんのコメントで教えて頂いたように、無負荷でモータを回しても殆ど電流は流れません。つまり、上のように空回しして発熱しないからと言って安心している場合では無かったのです。
では実際バイクを走らせてどの位電流が流れるのか?低速、高負荷ほど大電流が流れるわけですから、現実にありそうなシチュエーションとして、急坂を30km/h位で上っている場合を考えます。
上の走行曲線によれば、速度約35km/hで勾配10%の走行抵抗と吊り合っています。この時回転数は約1840rpmなので、モータ特性のグラフから電流は70A!余裕でヒューズが飛びますね(^^;実際には、そこまで電流が上がる前にコントローラで電流が絞られ、低い速度で均衡する筈ですが。
この期に及んで、悪い予感が現実になりそうな雰囲気です・・・つまりかなりショボイパフォーマンス(^^;モータの選択支が他に無く、これで電流が制約されてしまうんですよね。
********************11/1追記*********************
現実の走行曲線
Tatsuyaさんに教えてもらったお陰で、トルクは電流に比例するという原則だけで全て説明がつくと言う事が判りました。逆に言えば、電流が制限されている限り、他の条件を変えてもトルクは増えないという事です。これは痛い!
と言うわけで、電流が45Aに制限されている場合の走行曲線を作ってみました。モータ特性グラフによると、電流が45Aになるのは回転数が約2500rpm(速度は約46km/h)の時です。つまり、速度46km/h以下ではトルクはずっと横ばいと言う事です。
これを上の走行曲線に当てはめると右図のようになります。赤い直線が理論上の駆動力、「Realmotor」と書いた紫の折れ線が実際の駆動力です。ガーン!トルクの山が殆ど吹っ飛んじゃった(^^;
10%勾配どころか、7.5%位の坂が上れない・・・5%の勾配を40km/hで昇れる程度です。ちなみに僕の家の前の坂は約6%。この辺りの住宅地では全然珍しくありません。最高速50km/h以下のギア比にして、急坂を30km/h位で上れるようにするべきだったか・・・でもそれじゃあ、その辺のショボイ原付一種(600W以下)の中華バイクと変わらないではないか!1000Wの名が廃ります。