ポジション/足つき/取り回し
足つきの悪さはムルチで懲りたので、このテネレも試乗しようか迷ったが、乗ってみると意外と何とかなりそうな足つき性だった。
先ず、このバイクはシート高調整機能が付いていて、標準870mmを845mmに落とす事ができる。仕組みはとても簡単で、シート下にゴムの台座のようなものが付いており、この位置を少しだけずらす事で突起の位置を変え、シート裏の形状との関係でより低い位置に収まるようになる(写真3番目)。因みに2番目の写真が標準状態で、1番目の写真が低くした状態。ちょっと見にくいが、リアシートとの段差だ少し違うのが判るだろうか?
勿論、僕は低シートにして試乗。両足が同時に付く事は無いが、片足だけなら腰を極端にずらさなくても充分接地する。シートの表面がザラザラして滑り難い素材になっているので、着いてる足を右から左、左から右にさっと切り替えるのは難しいが、フロントが前後連動ブレーキになるのでそれをする必要が無い。停止直前の右足ブレーキは使わず、常に右足で接地し左足でシフト操作をすれば良いのだから。
というわけで、ドガティーのムルチやBMWGS1200やKTMアドベンチャーといった同カテゴリーの外車よりも随分マシな足つき性である事は確か。
ポジションについては、ローシートにしてもハンドルが高くなりすぎる事は無く、距離も遠すぎず、上体が起きた楽な姿勢になる。唯一気になるのは、ハンドル幅が余りにも広い事くらいか。
このバイクも比較的低い位置にエンジンがマウントされており(その意味でVツインより有利)、見た目の巨大さの割りに高重心感は無い。試乗車はガソリンがほぼ満タンだったが、これが半分位になると更に軽快になるという。
パワートレイン
怒涛のトルクでロケット加速。不用意にアクセルを開くと、上体が仰け反り置いていかれそうになる。その意味で先日のムルチストラーダと拮抗したパフォーマンス。
トラクションコントロールが付いている為、砂利道を走っても路面を全く掻き毟らないらしい。ただ、サウンドや振動はガラガラと安っぽい感じ。この車格ならもっと高級感のある回り方をして欲しい。
試乗の終わりになって、パワーモード切替がある事に気づいた。それまではSモードで走っていたが、Tモードに変えるとレスポンスがだるくなり、さっきのような仰け反り加速は無くなった。後で聞くと"S"はSportsで"T"はTouringの意味らしい。
ハンドリング/乗り心地
この巨体にして、素晴らしく軽快で自然なハンドリング。勿論、車体の長さはそれなりに感じるし挙動の緩慢さはあるが、むしろそれが好ましい。重いバイクを無理にシャープにしようとしてないので、バタッと倒れたりハンドルが切れ込むような不安感がない。接地感を伴いバイク任せに寝かしていけるような感覚がある。
巨体と長いサスストロークのお陰で、乗り心地は素晴らしい。シートも分厚くて高級サルーンのような味わい。
総合評価
余裕綽々の大トルクと非常に快適な乗り心地により、オーストラリア横断ツアーに行きたくなるバイク。それなのに、今回のような市街地での試乗でも、このバイクが一番楽しかった。多分峠でも、超タイトな部分を除いて、結構楽しめそうな予感がする。
直4スポーツは安楽さを求めると単調になり、逆に速さを求めるとせからしい。アメリカンはポジションなど違和感がありすぎだし、速くも無ければ快適でもない。その意味で、僕にとっての究極の選択は、こうした大型マルチパーパスのような気がしてきた。
ただ、テネレは足つきが思ったより良かったとはいえ、駐車スペースや取り回しを考えるとやはりでかすぎる。エンジンは600-900ccくらいのパラレルツインで、テネレより一回り軽量コンパクトなバイクがあれば理想。というとカワサキのヴェルシスがぴったりに見えるが、あれは結構足つきが悪い(テネレネといい勝負)。あくまでテネレを正確に縮小した(75%位か)バイクが欲しい。排気量もトルクも重量もシート高も、そして値段も。