イントロ
ここ数年ニューモデルの投入が殆どないスズキが放つ話題の超大作、それが刀(カタナ)。ただ個人的にはあまり興味がなかったが、2019スズキファンライドでは何と8台もの試乗車を用意してくれたスズキに敬意を表して試乗してみた。
ポジション/足つき/取り回し
足つき性はベースのGSX-S1000より明らかに悪く、まるでアドベンチャー系。ただハンドルもそれに負けないくらい高い(ハイライズなハンドルバー)ので、近年のネイキッドとしては他に類を見ないほどアップライトな姿勢になる。結果として(走りだすと良くわかるが)視線がとても高く、本当にアドベンチャー系のようなポジションだ。
パワートレイン
久しぶりに乗るリッターバイクということもあるが、トルクが強烈な上にレスポンスがシャープなのでギクシャクしてしまった。初期型のGSX-S1000の方がまだマイルドだった気がする。直4は本来、大排気量でもレスポンスが穏やかなのが売りだが、これだと650~900㏄くらいのツイン並み。
当然、中高回転域を試せる状況ではなかったが(無理に直線で引っ張っても無意味だし)、エンジンのキャラとしてはややガサツながらビュンビュン回るタイプだと思う。とにかく絶対的なパフォーマンスが、レトロ復刻版バイクとしては過剰だと思う。
ハンドリング/乗り心地
恐らく異例に高い乗車位置のお陰で、リッター直4としてはかなり軽快で率直なハンドリング。ただ上述の通りトルクレスポンスが強力なので、アップライトなポジションでは上体が置いて行かれそうになる。やはり停止中はキツク感じても、ある程度前傾姿勢じゃないと抑えが効かないということだろう。
総合評価
スタイルありきのバイクだと分かった上で、敢えて走りなど内容的な評価をすると、GSX-S1000のアドベンチャー版といった感じ。視点が高くゆったりしたポジションとシャープすぎるエンジンがチグハグ。残念ながら派生モデルとしての意味を見いだせない。これならベースのS1000の方が遥かに真っ当。
でウリのスタイルだが、旧カタナファンの評判があまり芳しくないのは、もちろんオリジナルと似ていないからだろう。しかし現代の背が高く前後長が短い直4エンジン&ミッションを使って、オリジナルカタナのロー&ロングなイメージに仕立てようなんて無理があり過ぎ。SV650をベースにカタナ風フロントカウルを装着したカスタムバイク(写真)が展示されていたが、そのほうがむしろしっくり来たほど。
一方個人的には、そもそもオリジナルカタナがカッコよいとは思ってないので、それに似てるか否かは問題ではない。なので今日のバイクとしてとして評価すると、フロントカウルからタンクへのシャープなラインや、短くカットされリアフェンダーは今風でカッコ良いと思う。しかしタンクが巨大すぎて、幾らカバーの造形をシャープにしてもズングリした印象が拭えない。また、何故か流行のストリートファイター風のポジションではなく、やけにハイライズなハンドルのせいでライダーを含めた見た目がカッコ悪い。それこそSVとはいわないが、GSR-600あたりをベースにしたらもう少し引き締まった印象になったのはないか。
というわけで色々チグハグなバイクだが、良くも悪くもリメイクカタナにこれだけ反響があるということは、名車の復刻版に対する需要はまだあるのだろう(4輪も同様)。しかし作ってはみたものの、売れたのは発売当初だけでその後は急減速、思ったように利益が出ないという結果に終わることが多いと思う。
前にも書いたが、結局工業製品はその時代の技術/時代背景あってのものなので、何十年も経ってから復刻版を出しても本質的な意味はない。一方消費者側も、過去の思い出は記憶の中だけに留め、今買う製品は今でしか得られないようなものを選ぶべきだと思う。それこそ40年後に復刻版が出てくるような製品を。