イントロ
このモデルからビッツという日本名が廃止され、グローバルネームのヤリスになった新型。1.5Lガソリン(G 1.5 CVT 2WD)とハイブリッド(Hybrid Z 1.5 2WD)に試乗したので、何方も纏めてこのページでレビューする。
居住性/ラゲッジ
インパネの造形は新型フィット程シンプルではないが割合スッキリしており、旧フィットやアクアのようにゴチャゴチャしてない。ただGグレード以下の標準内装は樹脂の素材感が若干安っぽい(写真の内装はこちら)。シートもヘッドレストが一体型なのは良いとしても、クッションが柔らかめでやや腰が無い。一方、最上級のZグレードは素材に高級感があり、同じ黒一色でも標準内装との違いは明らか。更に追加料金無しで選べる白黒内装だとより高級感が増す。またヘッドレストが分離式であるだけでなく、シートクッションや表面素材もより上質。特に座面がしっかりして、少なくとも体重が重めの私にはこちらの方が快適。
視界は前方に長く伸びたAピラーが邪魔と言えば邪魔だが、下手に三角窓がないので斜め前はサイドウィンドウから外を見れば良く、意識しなければ左程気にならない。
パワートレイン
ハイブリッド車に先に乗ったが、発進加速はしっかりEVモードになるので無音で力強い。エンジン始動後も街中で普通の走り方なら、低めの音質でかすかに唸ってるだけ。モーターアシストを一番感じたのは上り坂で一旦減速し再加速する時。普通のエンジン(マイルドHVも含む)だと一旦失速するところ、ヤリスのHVは無音でグイグイ引っ張るところが気持ち良い。
現行プリウスくらいからTHS特有の不自然な制御感がほぼ無くなっているが、ヤリスのHVは車重が軽い分パワーに大分余裕がある。アクアも力強かったがヤリスの方がより自然で私が乗ったTHSの中では目下最良。
一方、素の1.5Lのガソリンエンジンだが、これも十分以上に力強かった。上り坂で追い越しをかけてもキックダウンせずそのままトルクだけで加速できる。1気筒あたり500mlもある3気筒エンジンだが、ノイズは低く唸ってるだけで、ガサツな直4よりも静かに感じる。
例えばMazda2の1.5Lガソリンと比較すると、全般的にトルクが分厚く低い回転のまま加速できる(CVTもそういう設定)。Mazda2は超低負荷では非常に静かだが、少し踏むととすぐにキックダウンして回転が上がってしまう。逆にそうしないと必要なパワーが得られないエンジン特性(低速・低トルクだが軽やかによく回る)。対するヤリスはパワーモードにしてみたら全体的にちょっと騒がしくなるだけなので、標準モードのまま低回転で走る方が快適。ただスペックを見るとヤリスの1.5ガソリンは最高出力が88kWもあり、Mazda2の81kWを1割近く上回る。なので回して気持ち良いかは別として、ヤリスの方が全域で高出力ということになる。
更にスペックと言えば、ヤリスのハイブリッドに積まれる1.5Lガソリンは最高出力が67kWと2割以上低い。基本的には同じエンジンだと思うがアトキンソンサイクル化してるとか?理屈としてはハイブリッドのエンジンは効率の良い回転しか使わないので低速・高トルク型が適当だという事は判るが、同じベースのエンジンでこんなに特性を変えてるとは思わなかった。そういえばサーキット等でハイブリッドを全開にしてバッテリーを使い切ると、途端にパワーダウンしてモーターの恩恵を思い知るという話を思い出した。
ハンドリング/乗り心地
ハンドリングは新型ヤリス最大の美点。トヨタ車らしからぬボディー剛性の高さがあり、操舵に対する回頭性が単にクイックではなくソリッドでシュア。ワインディング等は走ってないが、交差点や緩いコーナーだけでも運転が楽しい。両仕様の違いは試乗コースが違うのでハッキリとは言えないが、ノーズが重いハイブリッドだから動きが緩慢という事もなく、逆に軽いガソリン車がクイックとも感じなかった。もっともこの辺はワインディングなどで切り返したり、もっと高いGを掛けたら印象が変わる可能性はある。
乗り心地もボディー剛性のお陰でソリッドでフラット。ただ、ハイブリッド(アルミホイール)はまだ良いのだが、ガソリン仕様(スチールホイール)では足回りのゴツゴツ感がちょっと気になった。ボディー剛性が高いとサスペンションは逆に柔らかく感じる筈だが、それにも増して足回りを固めてしまったという事か?何れにせよボディーの上質さに対して、足回り(スプリングやダンパー、ホイールなど)はあまり上等なものは付いてないのかも知れない。
電子制御
センターのディスプレーが大型かつ高い位置にあるので見やすいし使い易い。またヘッドアップディスプレーもマツダ車のモノと違い、フロントガラスに投影するタイプなので、焦点移動がホントに無くてとても見やすかった。この2つがあればステアリングホイールの中からのぞき込むメーターは最早必要性を感じない。法規上の制約はあると思うが、クルマのグラスコクピット化も遠くない将来実現しそうな気がした。
また上級グレードのみのオプションだが、自動駐車機能は良くできていた。ターゲットとなる駐車スペースに対して車を直角に着ければロックオン出来るのだが(左右どちらでもOK)、そこからは自動で曲がりながら障害物を検知しつつ前進、指示に従い手動でシフトレバーをRに入れたらあとは自動で後退し真っ直ぐど真ん中に駐車してくれる。この場合、ターゲットは白線でも壁や他車に囲まれていてもOKだし、同様に縦列駐車も可能。
更に凄いのは自宅の車庫などで左に詰めて駐車したい場合、一旦手動で駐車して見本を見せると、その後はAIが周囲の画像から自宅を覚えていて、自宅の車庫では常に設定した位置に駐車してくれるという。もっとも一旦手動で駐車を開始してから助けを求める事は出来ないし、そもそも駐車しかできない自動運転がそれほど必要かは判らないが、兎に角面白いし技術の進歩を感じる。
総合評価
シャシはスイフトやMazda2のレベルに一気に追いつき、僅かに超えたかも知れないくらい素晴らしいし、パワートレインもハイブリッドは目下トヨタ中最高、1.5ガソリンも同種ライバル中多分最良の部類。ボディーや足回りなど目立ちにくいパーツは徹底してコストダウンし利鞘を稼ぐという、トヨタのビジネスモデルをぶち壊すかのような力作。
ただ…グレードやオプションを吟味し、正確な見積もりを出してライバル車と比較すると、かなり割高な事が判った。例えば、ほぼ同じ装備(特にサポカー関連)のMazda2と比較すると15万円は高い。まあこれは、値引き幅を大きくとってお買い得感を出す作戦かも知れないが、発売直後でバックオーダーを抱えている今は未だ判らない。大体、普通のガソリン仕様のビッツ(ヤリス)が、仮に15万円値引きでも総額200万円ほどするとは…クルマってなんでこんなに高くなっちゃったの?