イントロ
20年の時を経て遂にモデルチェンジを果たした新型ジムニー。数年前からスクープ画像が出回っていたが、予想通り角ばったノスタルジックなデザインで登場した。MTと4AT両方に乗れたので(ただし別コース)比較しながらレポートする。
居住性/ラゲッジ
完全にスクエアなボディのお蔭で、室内は意外なほど広々としている。ハスラーもスクエアな車だが、ジムニーは本当に平面で構成されている。また何方も垂直に立ったAピラーが新鮮だが、ハスラーはフロントウィンドウが上下にやや狭いので、ジムニーの方が頭上空間が大きく感じる。視点もジムニーが一回り高く、角張った長めのノーズが運転席からくまなく見えるので、見切りは当然良い。
ただその分室内の前後長は大分短く、後席はハスラーやワゴンRと比べると大分窮屈。更に、大きなホイールハウスが後席を完全に挟む形になるので車体中央寄りに座る事になり、センタートンネルと内側の足が干渉してしまう。もっとも、この車で後席に大人が乗ることは先ず無いと思うが、シートを倒してラゲッジにした時でも、やはり奥行きが短いし何よりフロアの位置が他の軽と比べて大分高い。ただ底面も側面もフラットな正にスクエアな空間なので、長尺のものを入れない限り使いやすそうなラゲッジだ。
パワートレイン
最近のスズキの軽に有るまじき1トン超えの車体では、如何にターボでもかなり非力かと思いきや、それほど悲惨でもなかった(少なくとも平坦な街中では)。体感的にはアルトターボ(実はそんなにパワフルとは思わなかった)から23%減くらいの加速感かな。更にジムニーに試乗したのが真夏の酷暑日でエアコンが粗フル稼働だった事を考えると、同一条件ならもっと差が縮まるだろう。
またアルトターボのように大げさなタービン音がしないしターボラグ的なものも感じない、良い意味でターボらしくないエンジン特性だ。その御蔭もあって、ATの変速時の段付きも殆ど感じなかった。もっとも4ATはCVTと比べてもMTと比べてもトップのギア比が低いはずなので、高速巡航ではエンジン回転がかなり上ってしまうかも知れないが。
一方MT仕様だと、ダイレクトなレスポンスにより若干力強さが増すが、ギア比の繋がりが若干悪く感じた。というのは、1,2速がかなりローギアードなようで一瞬で吹けきってしまい、ストップ・アンド・ゴーがやや苦痛。しかし3速はかなり離れているようで、早めに3速に入れると急に回転が落ちて加速が鈍る。多分狙いとしては、本格的な悪路では1,2速だけで走り、3速以上は移動用という設定なのかも。
シフトタッチは、コクコク動くオンロードスポーツのMTと比べたら、ちょっとストロークが長い(レバーが長い)気もするが、軽く入るし節度感も悪くはない。クラッチもやはりストロークが長めだが軽いので苦にならない。
ただ燃費は他の軽と比べたらかなり悪い筈。AT仕様の試乗車では、燃費計で平均燃費が7km/Lとなっていた。ちょっと走ってすぐ戻るだけの試乗車は燃費には不利だが、大抵10%くらいハッピーメーターなことが多い燃費計で7km/Lとすると、実際の街乗り燃費は10km/Lをちょっと超えるくらいじゃなかろうか?
ハンドリング/乗り心地
乗り心地はフラットな路面なら良好、かつカッチリした遮音性の高いボディーのお陰で室内は静か。しかし舗装の補修などの凹凸を超えたりすると、ゴツゴツとしたショックが伝わってくる。ただ、走ったコースが違うので何とも言えないが、ゴツゴツしたのは鉄ホイール仕様(AT車)の方で、アルミホイール仕様(MT車)では感じなかった。何れにせよシエラほど乗り心地が良くないのは、多分タイヤがシエラほど柔らかくないから、あとはトレッドかな。ホイールはシエラより1インチ大きく、タイヤ外径は少し小さい(つまり厚みが薄い)。
一方、サスペンション自体はかなり柔らかいようで、リジットアクスルサスによる大きなバネ下重量の影響もあってか、非常にユッタリした揺れも発生する。つまりタイヤによる高周波振動とサスによる低周波振動が重なってどうもチグハグ。
ハンドリングについてはシエラのところでも書いたが、高重心なラダーフレーム車は原理的にロールしやすい。それを抑える為に普通ロールセンターを高く設定するが、そうするとコーナリングで妙に突っ張った感じになったり、自分を中心に車が横転するような動きを感じる車がある。このジムニーもシエラと比べたら若干その傾向があるが、急なハンドル操作をしない限りあまり気にならない(というか慣れる)レベルだと思う。
総合評価
最初は、先祖帰りというよりゲレンデヴァーゲン似の見た目が、流石に21世紀の新型車でこれは古すぎでは?と思ったが、広々した室内空間と見切りの良さを味わえば納得。超スクエアなボディーデザインは実物を見るとチョロQ的というか、カタログ写真よりキュートに見える。
それに比べたら先代ジムニーはやや乗用車的コンセプトだったようで、ボディーは普通に絞ってあるしラダーフレームは新型に比べて大分華奢だったようだ。新型が純粋なクロカン車として割り切れたのは、今はハスラーというSUV(クロスオーバー)が有るからだと思う。丁度バブル期に、普段乗りでも見晴らしが良くスキーに行くのに心強い等の理由でパジェロがよく売れたが、その後各社から次々と出たSUVが取って代わったように。
逆に言えば、新型ジムニーに興味がある人は、本格クロカン車は如何なるものか知っておいた方が良いと思う。先ずラダーフレームだが、単独で車体構造を維持できる強固で重いフレームの上に、ゴムブッシュを介して鋼製キャビン(重量はモノコックボディーとさほど変わらない)をマウントするという2重構造。よってお互いに剛性を補強し合う事がないので、同じ重量なら強度的にも剛性的にも不利(勿論コスト的にも不利)。
またモノコックはノーズを潰してキャビンを守るというクラッシャブル構造にしやすいが、ラダーフレームは前から後ろまでサイドメンバーが通っているためそれがやり難い。なので衝突安全面でも不利となる。
じゃあラダーフレームの利点は何かというと、オフロードで横転などしてボディーがベコベコに変形しても、別体のラダーフレームへの影響は軽微なので自走して帰れるとか、車台とボディーを完全に分離できるので、足回りのカスタムがしやすいとかだと思う。
リジットアクスルサスについても、デフとドライブシャフトが入ったケーシングを強固にしてサスの剛性部材として使うので、それだけでかなり重くなる。ここに更に左右の車輪を剛結したものがバネ下になるので、路面追従性や車体安定性・乗り心地と言ったサスペンションの性能としては相当厳しい。一方利点は、どんなにストロークしてもロードクリアランスが変わらないとか、やはり車高上げカスタムがやりやすいとかだろう。因みに完全にフラットな路面なら、理論上いくらロールしてもキャンバーをゼロ(地面に対して車輪が垂直)に保てるので、むしろ良路用のサスペンションと言える。
要するに本格クロカン車の長所は、ガレ場とかV字谷路面のような相当な悪路を兎に角走り切る事であり、逆に言えば他のすべての面においてSUVを含む乗用車に劣る。だから本格的なオフロード走行がしたいなら、新車なら新型ジムニーほぼ1択だが、もしクロカン車に乗ったことがない人がSUVのつもりで買ったら色々と不満が出てくるだろう。