イントロ
納車後約10ヶ月、走行距離約4500kmで再レビュー。200-08-24
ポジション/足つき/取り回し
スクーターらしくシートやボディーが幅広なので、足つき性は中型バイク以上というのが試乗時の感想だったが、オーナーになって足の出し方が判ってきたら、街乗りでも殆ど問題は感じられなくなった。コツはやはり前の方に座ることと、車体を少し傾ける事(傾けても重くならない)。
ライバルと足つき性を比較すると、シート高がかなり高いマジェスティーSよりは一回り良い。一方、バーグマン200はシート自体も低いし足を出す部分が絞ってあるので、PCXより明らかに良い。3者のシート高(足つき性)を数値で表すと、PCX=100、マジェスティーC=120、バーグマン200=80と言ったところ。
取り回しについてはスリムで軽量なDRZも悪くないと思っていたが、PCXに慣れてくるとこちらの方が断然良い。低重心による体感的な軽さも効いてるけど、何と言ってもサイズが小さい(PCXも125クラスでは長いけど、DRZと比べたら遥かにコンパクト)。
シート下のトランクについて書くと、メットインスペースは深さにあまり余裕がなく、中央部分の少し盛り上がった部分をヘルメットの開口部に収容するように出来ている。まあ、普通のオンロード用ヘルメットなら、サイスが極端に大きいとか、頭頂部にエアダクトなど高めの突起があるものを除けば、多分問題なく入ると思う。
因みに、僕がDRZ用に買ったオフロード系のヘルメットの場合、バイザーを外すのは当然だが、チンガードが出っ張っているので、全般的に後ろの位置に積まざるを得ず、凸部分に乗り上げてしまう。結果的にメットが少し浮いた状態になって、少し力を入れないとシートが閉まらない。
試しにテニスラケットを入れてみたら、ケースはおろか裸にしても長さが足りずに入らなかった。ということは、デカラケ/ミッドサイズ関係なく入らない。勿論、エレキギターもパーラーサイズギターも入らない。まあウクレレならテナーサイズくらいはOKかな。
とは言え、2L入りペットボトルの飲み物は少なくとも2本は余裕で入るし、走行中の衝撃でボトルが割れて液体が漏れる事も無かった。スーパーでも書店でもユニクロでも、買い物が楽しくなるねえ。
パワートレイン
下道の速度域(約80km/hまで)では、殆ど不満がないパフォーマンス。DRZと比べて劣るのは60km/h以上での加速と上りのワインディングでの速さ、そして開け初めのパンチ力くらい。
まずスタートダッシュはスクーターらしく強力。周囲のクルマを簡単に引き離せるし、大型バイクでも普通に加速してるなら数百メートル追いつかれない。ただ何故か50km/h付近で駆動力が一瞬途切れるゾーンがある。
最も気持ちが良いのは60〜80km/hあたりまでの加速で、非常に軽いエンジン音で滑るように伸びやかに走る。80km/h付近からはブーンとノイズが大きくなり加速度が鈍ってくる。ただ、高速道路の料金所からの加速のように、0-90km/hあたりまでずっと全開なら、加速直線的に加速していく印象。90km/h巡航だとほぼマックスパワーで頑張ってる感じ。更に100km/hは出るには出るが、エンジンより車体の安定性の問題で巡航したい速度ではない。
というわけで、250クラスと比較しても、実用的な動力性能はむしろ優っていると思う。例えば、ビクスクは重すぎて加速はもっさりしてるし回すと五月蝿い。MTの250スポーツも、80km/hくらい出すとトップギアでもエンジンが結構頑張ってる感があるから。
勿論、追い越しやキツイ峠の上り等、瞬発力が欲しい時は成すすべがなく、シフトダウンして回転を上げられるMTの250には敵わない。つまりPCXは常にマックスに近いパワーで走っているが、同じパワーで走ってるMTの250より遥かに音や振動が小さいからストレスが無いということだと思う。
アイドリングストップについては、従来モデルから完成度は高かったが、新型は更に静かに賢くなってるようだ。エンジン始動時にはスターターモータの音が聴こえず、後輪を手で回した時に聞こえるフォーンという微かな音だけが聞こえる。また、旧型ではバッテリーが弱ってくるとエンジンが掛からない不具合があったらしいが、新型はそれが改善されている(弱ったらアイドリングストップしなくなる)とのこと。
このように、4輪を含めて僕が体験したアイドリングストップの中でダントツにトップの出来栄えだが、省燃費効果については常々疑問に思っている。1Lのガソリンで40km以上走ってしまうエンジンの、数十秒間のアイドリングをやめて一体何mlのガソリンを節約出来るというのだろうか?アイドリングストップの意義はそれよりも、渋滞で止まってしまった時に苛つかないとか、森の中で停車した時に風や鳥の声が聞こえることだろう。
あとアクセルと開けずに坂を下り始めると、アイドリング+α位の回転数のまま、ニュートラルに入ったように滑り降りる。これは燃費的にも静かさ的にも好きだが、難点は速度がソコソコ出てから(40km/h以上かな)アクセルを開けると、急にクラッチがつながりガツンとエンブレがかかってしまう事。こういう場合、回転数やギア比を合わせてからクラッチを繋ぐようには出来ないのだろうか?
とは言え、PCXの走りの気持ち良さも要因は、DRZでは手動でやってた事を全部自動でやってくれるからだと思う。例えば、エンジンノイズを嫌って早めにシフトアップしていくとか、下りでは省燃費や荒れた路面でのサスの動きを良くするためにクラッチを切って滑走、タイトコーナーでは急なエンブレや逆にエンストを嫌ってやはりクラッチを切る、そして停止したらエンジンの熱を嫌ってマニュアル・アイドリングストップをするなどだ^^;
最後に燃費だが、街乗り中心でも42-44km/L程度、田舎道中心なら45-47km/L程度をマーク。一方、高速道路中心でも46km/L前後とあまり伸びない。経済速度は気持ちよさと同じで、60-80km/hあたりかも。総じて、走り方にあまり左右されず安定して好燃費なエンジンだが、寒暖差の影響の方が大きく、冬場は街乗りで40km/Lを切ったことがある。
因みに、僕は同じバイクに乗っても人より幾分燃費が悪い。多分体重が80kg近くあるのと、近所に坂が多いからだと思う。よって、平均的なライダーと環境ならもっと伸びると思う。尚、平均燃費計が付いているが、満タン法より大体10%ほどハッピーメーターだ。
【PCX125(2014モデル)との比較】
勿論絶対性能が大きく違うわけではないが、同じコース(中低速市街地)を続けて乗り比べた結果、ハッキリ違いを体感できた。先ず発進時にアクセルを開けると、125は回転が上がるのを待ってから加速が始まるのに対し、150は低い回転のままほとんどタイムラグ無しに力強く発進する。
定速走行や緩い中間加速でも、150は全般的に回転が低く抑えられ、ポコポコと長閑な音を出しながら、すっと速度が伸びるのが気持ちいい。ガバ開けした時の加速感や最高速は判らないが、少なくとも尋常なアクセル開度(エンジン回転)でのトルクは150の方がハッキリ上だと感じた。
フィーリング的には同じ回転数での音や振動は150の方が一回り強く、アイドリングから低負荷領域だと結構ドコドコ感がある。勿論、アイドリングストップをONにすれば関係ないから、あとは低速・低負荷時の時に150の方がやや振動が大きいくらい。
ハンドリング/乗り心地
ハンドリングについて初めて乗った時から感じている事は、車体が余りにも軽々と寝てしまう不安感だ。これは、見た目にもかなり細いタイヤ(特にリア)のせいだと思う。外径が大きく細身のタイヤは燃費に有利だとは思うが、これはスーパーカブと同じコンセプトだが、我がデンキカブ(ノーマルよりワンサイズ太いリアタイヤを履くプレスカブがベース)の方がまだ粘り感が強かった。
もっとも、ロングホイールベース&低重心のお陰で、一旦リーンアンクルが決まってからは不安定な挙動はない。また、切れ込みが強いマジェスティSとは対照的に、セルフステアは弱め。結果的に、気持よくワインディングを走れるし、少なくともタイトコーナーなら遅くもない。
加えてハンドルの切れ角がかなり有るので(多分並のオフ車より切れる)、Uターンや8の字走行が非常にやりやすい。高重心なため極低速でぽてっと転けそうなDRZより、もしかしてジムカーナに向いてるかも(^^)
ただし、ロードクリアランスが小さく、さほど深く寝かさなくてもセンタースタンドを擦ってしまう。リアタイヤの端から7mmほどはまだ使っていないにも関わらず!物理的に純正タイヤを端まで使えないバイクというのは設計的にOKなんだろうか?
直進安定性についても、風が強くなければ80km/h強までは不安感は無い。ただ、純正IRCタイヤは素晴らしく転がり抵抗が低い感じで滑るように走るのだが、時々横にも滑りそうな不安感がある。特に風が若干強めだと80km/h以下でも蛇行するような挙動を見せる。
乗り心地の第一印象は総じて硬い(サスもシートも)。マンホールの窪みなど大きめのギャップを50-60km/hで通過すると、リジットサスかのように衝撃が体に伝わってくる。ただ、初期型PCXで感じたような突き上げ感は無く、またCB250Fと比べても実は乗り心地は悪くなかった(実際疲れ方は小さい)。限られたサスストロークの中でそれなりに仕事をしてるのだろう。
シートは旧型より格段に進歩してると思う。クッションは最初は硬めに思えたが、しっかりしていて長時間座っても疲れが少ない。枕のようなヒップサポートは廃止されたが、リアシートとの段差は結構あるのでおしりのサポート性は悪くない(座るとシート表皮が伸びてかなり沈む)。更に、表皮にはシボがついて滑りにくくなっており、ニーグリップが出来ないスクーターでブレーキングした時に、ライダーが前にずり落ちるのを防いでくれる。
ブレーキは効きもタッチもスクーターとしては申し分ないが、特に良いのはブレーキ時の車体の安定性だ。理由は恐らく低重心なのと、前後の重量配分が絶妙なんだと思う。MTのスポーツバイクは重心がもっと高くて前よりだからノーズダイブがあるし、逆に一般的なスクーターはフロントが軽すぎたり剛性感が低いので頼りない。
このように、PCXがフラットフロアではなくセンタートンネル型にしたのは正解だったと思う。バッテリーもシート下トランクの前端に搭載されるなど、重量配分に配慮した形跡が伺える。そう言えば、車体のフィーリングはT-MaxやC600に似たスポーツスクーターと言った感じだ。
総合評価
買って直ぐに、秋晴れの田舎道を徘徊してみたが、PCXはこうした長閑なプチツーリングにとてもマッチしてると思った。エンジンに急かされることも無く、必要十分なスピードがするすると出てしまう。
思い立った所で不意に立ち止まると、アイドリングストップで森の音が聴こえ、座ったままグローブBOXからカメラを取り出して撮影できる。舗道林道のような超タイト&荒れた路面でも、低重心でコンパクトな車体のお陰で不安感が少ない。
勿論、渋滞気味の街中で、クルマの横をスルスルとすり抜けていくのは、MTバイクより格段に楽だ。また、街の駐輪場に停めて、上着など邪魔な荷物をトランクに詰め込んで買い物に行き、飲み物や本を買って帰れるのはやはり便利。
こうした実用コミューターとしてスクーターが優れているのは当然なのだが、その代償として走りの楽しさが犠牲になっている・・・かと思いきやそうでもないところが嬉しい誤算。実際ワインディングでも結構楽しいし、速さという点でも意外と良いのだ。
さて125との比較だが、多くのバイク屋は「(動力性能は)殆ど違いませんよ」と言ってたが、実際に乗ると結構差があった。ピークパワーや最高速以上に、何気ない街乗りで体感性能が違うのは大きい。また、法律的に自動車専用道路を走れるか否かとは別に、125だと物理的にちょっとシンドイ感じだが、150なら東名や名神は無理でも、90km/hくらいで流れているローカルな有料道路なら無理なく走れそう。
よく問題にされる維持費の違いだが、調べてみると任意保険の等級が進んだおっさんライダーなら、さほど違わないことが判った→http://www.mc-taichi.com/moto/49/ijihi.html あとは購入時の乗り出し価格が4-5万円変わってしまうのと、125の方がリセールバリューが良さそうだが、結果的に150にしてよかったと思う。