イントロ
変顔に注目が集まる中、車重が620kgしかないと知って俄然興味が湧いてきた新型アルト。加えて注目の5AGS(オートギアシフト)仕様で試乗できるのがバン(商用車)しか無かったのでバンに乗ってきた(写真は別のグレード)。
居住性/ラゲッジ
エクステリアで目立つのは角ばった顔というかノーズだが、これによって見切りが良くなるのかと期待したが、そうでもなかった。逆に取り回しが悪いわけでも無く、軽としては至って普通。
ボンネットが結構高くそれに繋がるウエストラインも高い。一方、車高(ルーフ)は今日の軽の中では低めなので、結果的にグラスエリアが上下に狭くなっている。しかし、これによって室内で閉塞感があるかというと、そんなことは無かった。
因みに旧型アルトは新型よりノーズが低く、遥かに低い位置からフロントウィンドウがスタートし上端は新型より少し高い。よってグラスエリアは上下に広く(高く)、室内で開放感が有るといえばあるが、逆に車幅(左右のAピラーの間隔)は狭く感じた。
それに対して新型は全てがスクウェア、インパネも直線的な帯が横に伸びるデザインで幅広に感じられる。だから旧型のように、幅が狭いので上に広げました的な、軽特有の狭小住宅感が新型にはない。
純粋にルックス的にも、MRワゴンに似たスクウェアでクリーンなインパネは好きだ。ただ、重箱の隅を突けば、センターコンソールのACのコントロールパネルが、全くシボがついてないプラスチックなので、ギリギリセーフかも知れないがヘタすると安っぽいと言われるかも。
しかしそれよりヤバいのはドアの内張りかも知れない。先ず上端がやけに角張っていて、そこから下が平面的な造形。素材としても、シボは付いてるけど、一見シボ無しに見えてしまうようなペラペラ感。そしてリアドアは、後半から大胆に跳ね上げたエクステリアが特徴的だが、内装はそこだけ鉄板丸出しというワイルドさ。
実は個人的には、こうしたベーシックカーに対して、質感がどうこうと目くじらを立てるのはナンセンスだと思ってる。しかし、敢えて細かなチェックを入れたのは、市場の評価を気にしてのこと。というのも、何故か「軽量化≒安っぽさ」と思ってる人が結構居るようなので、実際安っぽいと「ほらやっぱり軽量化のせいだ」となってしまい、元の豪華絢爛・重厚長大な「軽」に戻ってしまうのでは?と危惧するからだ。
勿論メーカーはコストと質感の非常にシビアな駆け引きをしているとは思うが、安い素材/安い加工方法を使っても安っぽく見えない造形というものを研究・開発して欲しいと思う。
パワートレイン
先ず、期待でもあり懸念でもある5AGSについてひとことで言うと、キャリイのAGSより遥かにマトモだった。当然ながら、超ローギアードなキャリイと違い、アルトのギア比は乗用車として尋常なので、Dモード(自動変速モード)で狂ったように回転を上げるようなことはない。
ただ、Dモードでのシフトアップのタイミングが、予想と期待からズレる点では同様だった。即ち、微小アクセル開度でも低いギアでかなり引っ張ってしまうし、意識的にアクセルを抜いても思ったとおりにはシフトアップしてくれない。
というか、シフトアップしてクラッチを再び繋ぐ動作自体にかなり(恐らく1秒強)の時間を要することが有る。そうかと思えば、予想より速いタイミングでスッとシフトアップしてしまうこともある。という訳で、Dモードは最初の5分ほどしか使ってないが^^;少なくともその範囲においては、プログラムのロジックというか癖みたいなものは掴めず、ギクシャクした走りになってしまった。
で、次にマニュアルモードだが、キャリイの場合と同様に遥かに走りやすい。キャリイのように電光石火のシフトアップ操作をしなくて良いのは勿論だが、マニュアル操作だと何故かDモードのような大きなタイムラグは発生せず、終始問題ないレスポンスでシフトアップ出来た。
尚キャリイと同様、シフトダウンはマニュアルモードでも車速に応じて自動的にやってくれる。よってちょっとシャープに再加速したい場合などを除けば、通常シフトダウンをドライバーがやる必要はない(しかもちゃんと回転を合わせるのでシフトショックはない)。まあ、シフトダウンが自動なので脳が完全自動だと思い込み、加速時にシフトアップ操作するのを忘れてしまう時もあるが。Dモードとは違い、マニュアルモードなら総じて普通に使えるミッションだと思った。
さて、ようやくエンジンについて書くと、他社も含めた多くの軽と比べて、エンジン回転が低め(つまり静か)且つ動力性能に余裕が感じられる。エンジンが吠えないようにマニュアルモードで早めにシフトアップしても、加速性自体にカッタルさはなく、回りの普通車から遅れを取るようなことは無いレベルだ。
静粛性としては、トップ5速で70km/hなら殆どロードノイズじゃないかと思うほど静か。80km/hになると若干頑張ってる感はあるものの、特に耳につくようなレベルではない。その上は出してないので判らないが、90-100km/hの高速道路レンジだとやっぱり五月蝿いかな?
追伸:後でカタログを見たら、同じ5AGSを積む乗用車仕様(Fグレード)よりバンの方が最終減速比が高い(ローギアード)事がわかった。具体的にはバンが4.705で、Fが4.338。4.338/4.705=0.922だから、Fの方が1割弱低い回転数でクルーズ出来るということ。これなら、軽の中ではかなり静かな部類なのでは無かろうか。
この動力性能や静粛性に匹敵するNAの軽は、他にはN-ONEくらいだろう。ただそれより200kg以上軽いアルトが同等のパワー感ということは、アルトの(静かさに対する)パワーがイマイチなのか、それともN-Oneのエンジンが凄すぎるのか?CVTとのマッチングも有るかもしれないので、今度アルトのCVTに乗ってみようと思う。
ハンドリング/乗り心地
例によって、交差点くらいしかコーナーがない街中での試乗なので、ハンドリングについては良くわからない。その範囲において先ず感じたのは、620kgという車体から期待するほど、軽快なハンドリングでは無いということ。
パワステの操舵力は普通だし、操作に対する車体の反応も特に軽快でもクイックでもない。ただスズキの軽って全般的に、パワステは意外と重くサスもねばり腰というかドッシリねっとりしたセッティングになってるとように思う。そうした傾向の中においては、新型アルトは車重の分だけ軽快と言えるかも。
そもそも、車体が軽いからと言って、軽々しいハンドリングにすれば良いわけでもなく、適度な安定感や節度感を与えた結果がこのハンドリグとも解釈できる。或いは単に、タイヤの空気圧が低め(冬だし走り始めて間がない)だから鈍重に感じただけかもしれない。何れにせよ、ワインディングでも走らないと、シャシの素性を判定する為の情報が足りなすぎる。
乗り心地については、バンタイプにも関わらず、硬さや粗さは特に感じなかった。すると乗用車タイプの方はもっと乗り心地が良いのかと期待するが、ディーラーの営業マンによれば殆ど変わらないらしい^^;しかし、何れにせよこの乗り心地なら、軽としては結構しっとりと上質な方ではなかろうか?
総合評価
新型アルトの写真を最初に見た時は、アルト・ワークス的な派生モデルが出るのかと思ったが、実はアルト全体のフルモデルチェンジだった。
サイドビューはVWのUP!風だし、妙に高く角張っがボンネットと上下に薄いグラスエリアがアンバランスな気もするが、アルトのように万人受けを求められる車種で、こういう大胆な方向転換が出来るスズキの勇気と柔軟性は素晴らしい。
そして何より、従来のプラットフォームを使いまわすのではなく、ボディー構造を一から見なおして大幅な軽量化を果たした事は、僕が全く予期しなかった大躍進だ。軽量化と言っても、強度や剛性を落とす訳には行かず(次世代プラットフォームとしてはむしろ高めないといけない)、ハイテンション鋼を使うと言ってもその分肉薄にしてしまったら、強度はともかく剛性はフニャフニャになってしまう。
なので、ボディーの軽量化とはアドホックな設計変更では不可能で、形状のボトルネックを無くし直線に近いリブを通すと言った、全般的な「構造改革」が必要。そのためには他のパーツとの干渉も考慮しないといけないので、部門横断的な目的意識の統一が必要だ。
そう考えると、50kgとか100kgと言ったオーダーで「軽」を軽量化するのは如何に凄いことか解るだろう。小回りがきかず、リーダーシップもなく、分業化されすぎ、社内規定に縛られがちな巨大メーカーでは永遠に無理かも知れない。
軽さは加速にも減速にもコーナリングにも効く(勿論燃費にも効くし、タイヤやブレーキパッドの持ちも良くなる)。「軽さこそ正義」というコーリン・チャップマンのマントラを10万回唱えなさい、さすれば貴方の会社のクルマも100kgいや50kgくらい軽量化出来る・・・かも知れないよ。