イントロ
ePowerのノートは以前にも乗ったことがあったが、インプレを書くのはこれが始めて。グレードは別にオーテックバージョンでなくても良かったが、今回は偶々近所のディーラーの試乗車がこれだった。
【2019/06/29 修正】
「ワンペダル」回生ブレーキについて書くのを忘れていたので、エンジンの欄の真ん中付近に追記した。
居住性/ラゲッジ
今となっては大分古いモデルだが、ワゴンではない現行の5ナンバー車の中では恐らく最も広い室内空間。特に室内の前後長はデミオの比ではなく後席も荷室も広々だ。そのかわり外観は良くも悪くもワゴン然としており、少なくともマツダ車のような古典的なエレガンスは無い。またシートはティーダより小ぶりだし、インテリアの質感は元々かなり質素な仕様。いくら光り物パーツをくっつけてもデミオやティーダの質感には遠く及ばない。それとこのプリウスっぽいシフトレバーは何処に入ってるか判らず、特に高齢ドライバーには間違いの元だと思う。
パワートレイン
念のために書いておくと、ePowerとは日産のシリーズ・ハイブリッド。つまり、エンジンは発電機としてのみ動作し、車輪を駆動するのはモーターのみ。なのでレンジエクステンダーEVとも言えなくはないが、バッテリーの容量が1.5kWhしかないらしく、発電機とモーターの間にある電力バッファという趣。実際、普通に走っていたらエンジンが停止してる事は稀で、アイドリングでフル充電(メーター上)してから走ってもEVモードは数kmしか持たなかった。
ただエンジンが回っていると言っても注意してないと判らないレベルのノイズだ(最高でも2000rpmしか回さないとのこと)。リーフのように、キーンという微かなインバーター音だけが響く静寂の世界ではないが、エンジンを積んだクルマとしては最も静かだと思う。
そして動力性能は正にEV!妙な制御が入ってドライバーの意図に背くプリウスやアクアなんて目じゃない率直さと力強さ。苦手な高負荷連続走行はしていないが、少なくとも低速ワインディング+市街地というコースでは、トルクと言いレスポンスと言い静かさといい、レクサス並みのパワートレインではあるまいか?
【追記部分】
ドライブモードを"Power"にすると、回生ブレーキが強くかかる所謂「ワンペダル」モードになるが、これがなかなか強力だった。アクセルペダルを戻すだけで、普通に停止するためにフットブレーキを踏んだくらいの減速Gが発生する。割合平坦で低速のワインディングで試したが、文字通りアクセルペダルだけでスピードコントロールが出来る。寧ろもっと低い減速Gでも良いくらいなので、下りの山道でも大抵はフットブレーキ無しで走れそうな気がする。
しかも、リーフのワンペダルが全閉にするとワンテンポ遅れて強い回生ブレーキがかかってしまうのに対して、ノートePowerのそれは全閉しても減速Gの立ち上がりが自然で扱いやすい。リーフもランニングチェンジで改善されているかも知れないが、少なくとも私が乗った初期型は半開け↔半戻しの妙なアクセルワークを強いられた。
【追記終わり】
ただ原理的な話をすると、シリーズ・ハイブリッドはどんな時もエンジンで発電→バッテリーに蓄電→モーターで駆動という経路を通るので、エンジンにとって効率が良い時は直接車輪を駆動するパラレルハイブリッドより総合効率は劣るはず。しかも構造がシンプルかというと、確かにトランスミッションの類は不要だが、モーターは駆動用と発電用に必ず2つ必要。バッテリーもパラレルHVより大きめのものが必要なので、コスト的な優位性は微妙だ(多分トヨタ方式よりは安く、ホンダやスズキ方式よりは高いかな?)。
更にそのバッテリーは、ピュアEVよりは遥かに小容量であり、猛烈に頻繁に充放電を繰り返すわけだから、サイクル寿命的にかなり厳しい筈。他のHVシステムはもっと小容量だけど、その代りエンジンでも車輪を駆動するのでバッテリー負荷が減り、差し引き同程度の寿命だとしたら電池交換時のコストでシリーズHVは不利になる。
ハンドリング/乗り心地
以前乗ったノーマルのePowerの乗り心地は、古い住宅地などのあまり舗装が良くない部分で結構ゴツゴツと突き上げてくるし、然程強固でないボディーが振動を受け止めきれてない感じだった。実は現行ノートは2012年の発売直後に乗った素の1.2Lガソリン仕様の乗り心地が一番良く、ミラーサイクル+スーパーチャージー仕様は結構ゴツゴツしたが、e-Powerは少しだが更に乗り心地が悪いと思う。パワートレーンの重量増に伴い、少しづつサスを固めてきたが、ボディーは元々素の1.2Lの重量にしか対応しておらず剛性不足だと思う。
というのも今回のオーテックバージョン(実はそんな特別仕様だと知らずに試乗したのだが)乗り心地は固めではあるものの、以前乗ったe-Powerと違ってボディーはしっかりしており全体に引き締まった感じだった。だから以前乗った普通のe-Powerも実はこんなもんだったかな?とか、その個体は未だアタリが付いてなかったのか?等と考えたのだが、後でカタログを見てビックリというかガックシ。何とオーテックヴァージョンはボディーの要所をクロスメンバーなどで補強したり、専用サスを採用したと書いているではないか!じゃあオーテックじゃないe-Powerはやっぱり乗り心地悪いって事じゃん!
ハンドリングに関してはどの仕様も普通というか率直。パワートレインが重いはずのe-Powerでも運転してそれほど鼻先が重いとは感じなかった。
電子制御
デミオに引き続きサポカー的視点も重視したが、試乗車にはプロパイロットが装備されていて、良くも悪くもこちらの印象の方が強かった。このシステムはオートクルーズ機能が先ずベースに有り、前にクルマがないときは設定した速度になるようアクセル操作を自動でやってくれる。そして前にクルマが居る場合は、ハンドル上のスイッチでロックオンすることにより、前車の速度に合わせて自動追従する。その際の加減速はスムーズで当然車間距離は一定(何段階かで設定可能)に保ってくれる。
ただ、コーナーで前車がカメラの死角に入ったりすると、当然ロックオンは解除される。また信号等で停止した時は、前車を見失ってなくても何故か追従モードは勝手に解除される仕様。なので追従モードに戻すには、一々ロックオン操作をしないといけないのでかなり面倒。しかもうっかりその操作を忘れて追従モードのつもりでいたら、グングン前車に近づいてパニックブレーキを踏んだり、直前で(プロパイロットじゃない方の)自動緊急ブレーキが作動する事になる。また、前車が分岐で別の道に別れたりして前が空くと、オートクルーズで設定した車速まで勝手に加速するので、コーナーが迫ってたりすると結構焦る。
というわけで、このシステムは便利なのか不便なのか、安全なのか危険なのかよく判らない。多分、高速道路や直線基調の田舎道で信号や交差点も稀、単独走行ではないが市街地ほど混雑しておらず、適当なターゲットにロックオンすればあとは勝手に引っ張ってくれるようなシチュエーションが多いなら便利かな。
余談だが、偶にやたらと後ろをピッタリとくっついて来る車がいるが、もしかしたらこういうシステムを積んでロックオンしているのかも知れない。ならばこちらもロックオンされた事を検知してアラートを出してくれるシステムが欲しい。その場合、コーナーで引き離しても良いのだが、相手が追従モードの解除に気づかずに追突してきたら困るので、最初からジャミングじゃないけどロックオンを拒絶する装備があると良いな。コバンザメみたいにくっつかれるのは気持ち悪いし、大体そんな他力本願な運転が増えたらまた新たなタイプの事故が増えるかもよ。
総合評価
本来ノートは簡素で安価で実用的なクルマであり、上述の乗り心地(ボディー剛性)の点からも素の1.2Lガソリン仕様が相応しいと思う。それにシリーズ・ハイブリッドや自動運転システムを付けて、トップグレードだとコミコミ300万円近い価格帯まで広げる事は本質的に無理がある。まあノートe-Powerはかなり売れたらしいので商売上は成功してると言えるが、もうそろそろ頭打ちだろう。さっさとかっこいいマーチを日本に導入してe-Power仕様やEV仕様を出して欲しい。