イントロ
ヤリスと同時期(2020/2月)に発売されたばかりの新型フィット(4代目)。e:HEVとは本モデルから使い始めたグレード名でハイブリッドの意味。
居住性/ラゲッジ
インパネは前作と比べて格段にシンプルかつクリーンなデザインになった。ただ試乗車は内装カラーが黒一色の方だという事もあり、安っぽいとは言わないが事務的な見た目で少なくとも高級感は無い。メーター類も完全にグラスコクピット化したのは良いが、液晶の面積が小さめの割に文字情報が多めでややチープ。
シートはシンプルな造形ながらクッションはしっかりして座り心地は良好。ホワイト内装なら見た目も高級感があると思う。後席もしっかりしたシートだし、前後スライドしないが前席との間隔は広々。またホンダお得意のフロントタンクレイアウトの為、後席の座面は跳ね上がって背の高いもの(自転車に良さそう)が置けるし、背もたれを前に倒せば座面も沈み込む設計なのでフラットな床になるのは素晴らしい。
さて新型フィットの特徴であるAピラーだが、一番前の細いピラーは単にフロントガラスとサイドガラスの継ぎ目であり、ボディー骨格としての本当のAピラーはその手前の太いピラーだ。これによって「視界の爽快感」をホンダは訴求しており、実際に運転しても超ワイド画面で前方を見ているような新鮮さはある。ただよく見ると、インパネの天板が真っ平でスッキリしてるから解放感とワイドさが強調されているとも考えられ、視界が素晴らしく良い(特に斜め前の死角が少ない)かというと微妙な気がする。
確かに従来の三角窓のように中から外を眺める事は事実上不可能というものではないが、細いとは言え余分なAピラーが付いてる事に変わりない。これならフロントとサイドのガラスを一体化して1枚のラウンドガラスにするか、それが無理ならウェザーストリップ的な最小限の継ぎ目にすれば、本当に死角が無い1枚の視野として認識できると思う。そうしなかったのは多分、エクステリアの「ワンモーションフォルム」に拘ったからだと思うが、この際思い切ってクロスターのようなブラックアウトしたグラスエリアを全車に採用しても良かったのではないか?
パワートレイン
ハイブリッドらしく発進加速は粗無音で力強いし、その後の加速もシームレスで良好。モーターアシスト感が希薄でガソリン仕様との差が小さかった先代と比べたら確実に進化している。ただし、同時期に発売されたヤリスのハイブリッドと比べるとトルク感は若干弱めだし、エンジンノイズも甲高く大きめ。
あとでカタログを見たらこのハイブリッドシステムは2モーターのパラレル式だった。しかも高速・高負荷運転ではエンジンだけが駆動し、その他の状況ではモーターだけが駆動するとの事。https://www.honda.co.jp・・・
つまりトヨタを含め多くのハイブリッドのようにモーターとエンジンが同時協調駆動する事はない。しかしそれにしてはモーターだけが駆動してる筈の低速でも、エンジンが(発電だけで)結構回ってしまう制御は解せない。最早ホンダ伝統のIMA(1モーターのシリーズHV)は昔の話なんだから、『車速とエンジン回転が比例する自然さ』とかに拘らず、日産e-Powerみたいに発電機付きEV感を出したら良いのではないか?
ハンドリング/乗り心地
プレス向け試乗会では「ボディーが大分しっかりした」と高評価だったので期待して乗ったが、確かに先代よりは確実に進歩していた。先代は1.3Lガソリン仕様は問題なかったが、ハイブリッドはパワートレーンの重さに対してボディー剛性が完全に不足し、ロールを嫌って無理に足回りを固めてたせいで、乗り心地もハンドリングも破綻気味だった。それに対して新型は、ハイブリッドにもちゃんと対応したボディーになったと思う。
ただキャビンフォワードの重量配分のせいか、基本的にはどっしり系のハンドリングであり、ヤリスのようにソリッドでもスイフトのように軽快でもない。またMazda2のように非常に強固で静粛性の高いボディーでもない。あくまでスペース効率重視のファミリーカーとして真っ当なシャシになったという事。まあこの新型のシャシなら、軽い1.3Lガソリン仕様であればもっとソリッドで軽快なハンドリングになってると期待はしているが。
総合評価
エンジンもシャシも見た目も先代モデルから確実に進歩しているが、スイフトやMazda2といった良くできたライバルと比較して走りにアドバンテージがあるかは微妙。特に新世代コンパクトハイブリッドとして直接のライバルであるヤリスと比較すると、シャシもパワートレーンも少しずつ劣ってるのが痛い。せめてヤリスより半年早く発売されていれば少なくとも最初は大ヒットしたと思うが、今となっては目新しさがあまりない。
フィットは後席に人を乗せる若い世帯向けのファミリーカーだから、上に挙げたクルマとは商品コンセプトが違うという向きもあるだろう。しかし今時広い室内が欲しければ軽を含めたワゴン系を買うと思う。その意味では、室内広々コンパクト2Boxというコンセプト自体が、残念ながら終わってしまった感がある。
それとこのハイブリッドシステムは、ホンダの上級モデルに搭載されている方式と同じらしい。開発費を抑える為の共用化だと思うが、少なくともコンパクトカーであるフィットのハイブリッドとしてはやや過剰に思える。というのもモーターが駆動用と発電用の2つ必要な上に、エンジンと駆動輪を繋ぐトランスミッションが必要だから。ライバルの日産e-Powerは2モーターだがトランスミッションは不要。スイフトのストロングハイブリッドはAGSと1モーター(スターターとも共用)。トヨタのハイブリッド(2モーター+スプリッター)と並んで最も複雑(つまり高コスト)なハイブリッドという事になる。ホンダはこの方式で全車種通すつもりだろうか?